第363話 やはり俺達はかなわない

「出来た訳か」

 詩織ちゃんは頷く。


「ただ時間軸先方向を見るだけでは自分の行動で揺れ動く可能性ある場合の結果は見えなかったのです。

 なので、結果を見るには自分の行動を選択する必要があるのです。

 その自分の行動の選択肢毎の結果を確認すれば答えは出る訳なのです」


 正解だ。


「答え合わせは俺じゃなくて風遊美さんの役目だな。今呼んでくる」

 俺は立ち上がり、リビングへ。

 風遊美さんは月見野先輩と座卓でオセロをやっていた。


「風遊美さん、終わったらでいいのでお願いできますか。詩織ちゃんが宿題を解いたらしいので」

「あら。なら私も一緒に行こうかしら」

 月見野先輩がそう言って、そしてオセロを片付け始める。


「あれ、ゲームの方はいいんですか」


 月見野先輩が頷く。

「元々風遊美の魔法のトレーニング用にやっていましたので」


 風遊美さんも頷く。

「やっぱり選択肢が多いと大変ですね。杖なしで魔法を使ってオセロをすると自分の未熟さがよくわかります」


 つまり風遊美さん、新魔法を使えるように鍛えていた訳か。

 何というか本当に真面目というか油断も隙も無いというか。


 オセロ板を片付けて立ち上がり、3人で俺の部屋へ。

 決して広くはない俺の部屋に6人はちと多いが、まあベッド2人椅子2人で何とか陣取る。

 立っている2人は風遊美さんと詩織ちゃんだ。


「この前と同じ方法で行います。途中の勝ち負けに関係なく同じテンポで10回勝負しますので、そのつもりでお願いします」

 詩織ちゃんは頷く。

 そして。


 グー対グー。


 いきなり引き分けた。

 それでも勝負は続く。


 パー対グー

 チョキ対チョキ

 チョキ対グー

 パー対チョキ

 パー対グー

 チョキ対チョキ

 チョキ対パー

 グー対チョキ

 パー対パー


 風遊美さんは頷いた。


「私の負けです。でも、もう種明かしをする必要は無いですね」

 詩織ちゃんは頷く。

「自分の選択肢を選ぶという処になかなか気づけなかったのです。という事で早速……」


「ちょっと待って下さいな」


 月見野先輩が詩織ちゃんを制して、そのまま部屋外へ出ていく。

 すぐ戻ってきたその手には紙袋が下がっていた。


「本当は今日の3時のおやつにしようと思ったのですけれども。ちょうどいいのでこれを奈津季に持っていって下さいな」


「わかったのです。ありがとうなのです。では靴を履いてから行ってくるのです」

 詩織ちゃんは部屋を出て行く。


 ドアが締まり、ちょっとした間を置いてから月見野先輩が悪そうに笑った。

「さて、今もたせたお土産のお返し、詩織が持って帰ってくと思う人は手を上げて下さいな」


 おいおい、俺はそんな事考えつきもしなかったぞ。

 でも風遊美さんと香緒里ちゃん、それに世田谷は手を上げている。


「奈津希の事ですからきっとこのお菓子の出処に気づくと思うのです」

「私も風遊美さんと同意見です」

「東京のお土産が本場のお菓子に化けるなら安いものよね」


 つまりは月見野先輩がお土産を持ってきたのは打算だった訳だ。

 俺には思いつかない発想だ。


 思わず俺とルイスは顔を見合わせる。

 お互いの目が語っていた。


 女って、怖いな……と。

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