第366話 親離れ子離れ先輩場馴れ?
「ちなみにアホゲルには『うちの娘に手を出すんじゃないこの爺!』とメールを送った。そうしたら『うるせえ機械オタクは工場に引き籠っていろ!』とメールが来た。何もかも気に食わない」
おいおいどこまでがシリアスか分からなくなるじゃないか。
でもまあ何となく図式は読めたぞ。
要は
○ 詩織ちゃんがゲルハルト氏と内容不明の連絡を取り合っている。
○ ゲルハルト氏をよく知っている田奈先生としては心配であるし気に食わなくもある。
といった処か。
でもそれにしては何か神経質すぎる気がする。
田奈先生は見てくれは悪いが頭の構造は悪くなかった筈だ。
俺は単刀直入に聞いてみる。
「他に懸念事項か何かあるんですか」
田奈先生は頷いた。
「ごくごく最近、詩織の魔法の質がまた変わった気がする。おそらく新しい魔法を身に着けたのだろう。それも戦闘に有効なタイプの魔法をだ。
アホゲルと連絡を取り始めたのはそのすぐ後からだ。
私はそれを偶然の一致とは思わない」
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分が色々と見逃していた事に気づいてしまった。
詩織ちゃんが奈津季さんの処に魔法の訓練に行った理由。
対予知魔法を必要とした理由。
それは『似たような相手が他にもいる』から『その相手を倒す手段を探すため』に必要だという理由だった筈だ。
その手段は、予知魔法は手に入った。
ならばゲルハルト氏に連絡を取っているのは、順番からして戦闘後の後始末。
訂正、田奈先生の危惧は間違いなく事実だ。
でもそれに対して俺達は確か態度を決めた筈だ。
奈津季さんが感じた未来を、そして詩織ちゃんの実力を信じる事にした筈だ。
俺達では手が届かない場所だけれども、それでも手を出したいけれど、詩織ちゃんをそんな危険な目にあわせたくはないけれども。
それでも信じて送り出してやろう、そう風遊美さんや香緒里ちゃんと話したんだ。
そして俺は更に気づく。
この俺の前にいるむさい中年親父も、きっとそれはわかっている筈だと。
俺より色々経験も積んでいるし危ない目にも何度となくあっている筈だからこそ、そしてそれらを自分で切り抜けてきたからこそ、きっと。
「何が起きるか。いや貴方の娘が何をやる気か、もう大体わかっているんですね」
「私の娘だからな」
田奈先生は頷く。
あえて血の繋がりが無いじゃないですかなんて事は言わない。
血の繋がりが無くともあの2人が親娘なのは俺が充分に知っている。
でもちょっとだけ、文句は言わせてもらおう。
「俺は答のわかっている愚痴を聞くために呼ばれた訳ですか」
「同情してくれそうなのが他に居なくてな」
まあ気持ちはわからないでもない。
だから少しだけ手出ししてやろう。
「まあ詩織ちゃんにはゴールデン・ウィークが終わったら家に帰るようには説得します。まあきっと本人もその気だと思いますけれど」
「頼む。あいつがいないと家庭内の立場が弱くてな」
おいおいおい。
それが本音かよ。
いや、それも本音かよ。
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