第357話 裏切りの黒魔女(2)
「まあそうだけれど、あまり心配してもらわなくても大丈夫よ」
ルイスがぎょっとして振り向く。
風呂から早めに上がってきたらしい世田谷が客間から出てきた。
浴衣に羽織姿だ。
つまりもう今日は帰る気が無いらしい。
「攻撃魔法研究会の方は蒲田に引き継いだし、学生会には5年の攻撃魔法科はいないでしょ。なのでこの1年は『裏切りの黒魔女』として今までの味方さんのターゲットになってあげるわよ。そうやって精一杯しごいてあげるのが私なりの愛情かな」
ルイスがあからさまにいやな顔をする。
「あまり下級生を絶望に追いやらないでくれ。攻撃魔法科の全員がメンタル頑丈な訳じゃないんだ」
「逆よ。有望な相手じゃないと手間暇かけて相手してあげないわ。味方になっちゃったけれど2年の理奈ちゃんなんてなかなか見どころあっていいじゃない。こっちか攻めようと挑発しようと淡々と性悪な罠を仕掛けまくるあの黒さ。それこそ味方の被害すら道具にして相手を叩きのめすあの悪さ。あれ位の相手でないと面白くないのよね」
「そうなのか」
ルイスは苦笑いしつつ頷いた。
「あの時は僕が世田谷先輩に落とされたのを利用して、攻勢に出た教官含む8人をまとめて退場させたんだっけな。あの試合のトータルはうちの負けだったが一番星をあげたのは理奈だった」
「あの子はえぐいわよね。本気魔法も強いのに、あえて作戦で凝る方を好むから」
まあ何となく俺もそんな感じはしていたけれどな。
「ところで行儀悪いけど、ちょっと横になるわね。少々食べすぎたわ」
世田谷はそう言って正座補助用のクッションを枕に横になる。
こいつもやっぱりトド組予備軍だったわけか。
「そう言えば皆食べ過ぎは大丈夫だったか」
「被害甚大ね。鈴懸台先輩と1年女子3人と愛希ちゃんと、あと白人系2人は多分今日は再起不能かな。それぞれぬる湯とか寝湯で伸びていたけれど、動くのすらつらそうな感じだったわ。まあ私も人の事は言えないけどね。胃袋の丈夫さには自信あったんだけどな」
やっぱり予想通りの面子がトド化していた訳だ。
「魔法医専攻も何人かいるから問題ないだろう」
ルイスの言う事ももっともだが、うち1人は精神医療専攻希望で本人自らトド化しているぞ。
と、客間の方から人の気配がしてきた。
どうやら露天風呂から何人か出てきたようだ。
「全員終わりかな?」
最初に出てきた香緒里ちゃんに聞いてみる。
「まだ結構居残りがいます。多分今日は男性陣は無理です。月見野先輩がまだいるから問題は無いと思います」
世田谷の言うとおりのようだ。
つまり食べ過ぎで動けない連中と、その救護兼状況観察で残っている月見野先輩という構図。
ただ俺が用のある2人は出てきている。
なので俺は声をかける。
「風遊美さん、詩織、ちょっと話いいかな?」
「何でしょうか」
2人が座卓の処にやってくる。
「詩織、さっきの話風遊美さんにしていいか。例の最強に勝つ方法」
風遊美さんは詩織ちゃんと似た魔法を持ち、かつ奈津希さんの事をよく知っている。
だから一番参考になる意見を聞けると思ったのだ。
倒れている世田谷も興味があるらしく、少し顔を動かしてこっちを向いている。
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