第356話 裏切りの黒魔女(1)
「それにしても、なあ」
ルイスがつぶやく。
「何だ」
「世田谷先輩が来たのは想定外だった」
ルイスはそう言ってため息をついた。
「何で」
「攻撃魔法研究会の事実上の主戦力だしな。学生会とも結構やりあっているし。別に仲が悪い訳では無い。でも立場として対立しているのは確かだ」
そんな感じなのか。
「創造製作研究会は別に学生会と対立してはいなかったけどな」
「攻撃魔法科だけの特殊事情だ。親学生会側と親攻撃魔法研とは攻撃魔法科の2大派閥のようなもので、合同トレーニングもわざと2大派閥別で開催したりする」
魔法工学科の俺は全然そういう話は知らなかった。
「攻撃魔法科ってそんな恐ろしい世界だったのか」
「わざとだけどな。抗争形式にした方が張り合いもあるし模擬戦なんかでも熱が入るだろう。
本当は攻撃魔法研究会の対立軸は学生会じゃなくて魔法分析研究会や魔法格闘クラブの筈なんだ。でも奈津季先輩の頃からは学生会のほうが戦力的に強くなってしまった。だから今は攻撃魔法研究会中心の一派対学生会中心の一派という形になっている訳だ」
「要はプロレスの団体同士の物語みたいなものか」
「ああ。そして世田谷先輩は向こう側の事実上の中心人物だ」
俺にもやっと図式が見えてきた。
「それって物語的にはまずいんじゃないか」
「僕もどう整理するか苦慮している。名目だの学年を無視すれば、世田谷先輩は既に去年から攻撃魔法研究会の中心人物だった。異常に発動が早い闇魔法使い。しかも闇魔法を味方支援だの陽動だのに使うタイプだ。
実際はきっと強すぎるから直接攻撃に魔法を使わなかっただけなのだろう。その辺はきっと由香里先輩や奈津季先輩と同じだ」
確かに俺も、由香里姉が全力の攻撃魔法を出したのを見たり聞いたりした事はない。
知っている限りでは由香里姉の最強の呪文は『氷の城』。氷の壁による絶対防御魔法だ。
奈津希さんも詩織ちゃん相手に使った話を聞くまで、予知魔法併用技などを出したりしなかった。
しかも詩織ちゃんの話を聞くに、その魔法技でさえ全力ではなかったらしい
きっとルイスもある程度自制している部分があるのだろう。
ただ奈津季さんには由香里姉も風遊美さんもいるし、ルイスには更に詩織ちゃんもいる。
そういう相手が世田谷にいなかったとしたら……
「ただ、世田谷先輩が研究室の件で事実上移籍した理由も感情も、僕はわからない訳でもないんだ。今の環境ではこれ以上自分を強く出来ない、もしもそう感じたのだとしたら」
ルイスは一息置いた後、言葉をつなぐ。
「攻撃魔法なんてのは知識もあるが、それ以上に才能と魔力だ。奈津季先輩みたいなのはめったにない例外。
だから戦法や魔力の使い方をある程度マスターしたら、少なくとも模擬戦等では学生も教官も対等だ。
僕の風魔法みたいな使用者の多い魔法はまだいい。比較研究だの事例からの研究だの開発だの学校で取り組む内容があるから。
でも世田谷先輩の闇魔法なんて学内に他に使用者もいないし事例も研究もほとんど無い。だからある程度抜き出た存在になってしまうとその先をどう進めるかが難しいんだ。
世田谷先輩はきっとその活路を、攻撃魔法科以外に求めたんだな」
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