第353話 ここでちょっとご相談
「あーもー天国だわこれ。もうここに住んじゃおうかしら」
露天風呂を目一杯堪能して世田谷が出てきた。
既に浴衣に羽織姿のあたり、もうここの空気にどっぷり浸かってしまったようだ。
「金曜から日曜までと休日前後なら構いませんよ。どうせこんな状況だし」
「あと旅行とバイトの件は妹共々参加させてもらうからね。香緒里さんに許可もらったし」
そこまで話が進んでいたのか。
何だかなと思いつつもまあいいかとも思う。
なお妹の方も既に打ち解けて仲良くやっているようだ。
と、詩織ちゃんがやって来た。
「ちょうどいい処なので黒魔女に相談なのです」
「ふむふむ、何ぞや」
2人で座卓の俺の前に座って話し始める。
「実はこのままではどうしても勝てない相手がいるのです。今朝も模擬戦やってけちょんけちょんに負けてしまったのです」
成程、今朝の詩織ちゃんの疲れ様はそういう訳だったのか。
しかし詩織ちゃんが完敗するような相手ってどんな化物だ。
世田谷も同じ事を思ったらしい。
「ひとつ聞いていい。私は詩織ちゃんがそこまで敵わない相手って想像出来ないんだけれど。どういう相手なの、それ」
詩織ちゃんはどこからともなく杖を取り出す。
詩織ちゃん専用仕様のヘリテージ2だ。
「この杖の原型を所持していて、火、水、風、土、雷の5属性を自由に操り、未来予知魔法まで使いこなす相手なのです。最強すぎて手加減されても全く手が出ないのです」
おいおいその条件に当てはまるのって、まさか……
だが世田谷は俺の狼狽を違う意味に取ったらしい。
「まさか長津田じゃないわよね」
俺は全力で首を横に振る。
「俺じゃない。でもきっと世田谷も知っている人物だ」
詩織ちゃんは俺の言葉に頷く。
「その通りなのです。率直に言うと、奈津季先輩の本気モードなのです」
やっぱり……と俺は思う。
つまり今朝、詩織ちゃんはわざわざフランスまで行って模擬戦闘して帰ってきたと。
それじゃ疲労困憊も無理ないよな。
世田谷も何か納得したように頷いた。
「確かにね。宮崎台先輩は私の闇魔法すら届かないし通用しないし。あの人が魔力増幅して予知魔法なんて使ったら、確かに通常の魔法で勝つのは難しいわね」
「広範囲殲滅魔法とかは禁止という条件なのです。実際フルパワーで空間歪曲魔法を使いつつランダム出現しても全部予知してカウンターされるのです。あそこまで高い壁は始めてなのです。打開策が思いつかないのです」
詩織ちゃんの言っている意味は所々わからないが、どういう事態かは想像がつく。
確かに未来予知使用なんで反則魔法、破る方法なんてそうは思いつかないよな。
しかもそれを使うのが何でもありの奈津季さんだったら尚更だ。
「戦わない、戦う機会を作らないという哲学的手段は駄目なのか」
「奈津季先輩だけならそれもありなのですが、似たような相手が他にもいるのです。元々その相手を倒す手段を探すために奈津希さんに模擬試合を頼んだのです」
成程。
俺もそうなると思いつかない。
しかし思いつきそうな人間には心当たりがない訳ではない。
詩織ちゃんと近い魔法を持っていて、奈津季さんとペアで学生会を運営していたあの人。
あと2時間もすれば帰ってくる筈だ。
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