第346話 疲れた詩織と思わぬ客と

「今はこの部屋もこんな環境になったしさ、全員が常に集まれるというのはあまり意識しなくてもいいかもしれないな。人数多すぎるから自由行動もグループ毎だし」

「そうですね。それにあと1人空間魔法の使い手が入れば、電車やバスの手配すらいらなくなるかもしれないですね」


 確かに。

 まあ詩織ちゃんは駅弁を食べるためにだけでも電車には乗る価値がある!と言うかもしれないけれどさ。


「そんな人間が増えたら飛行機も鉄道も破産だよな。まあ風遊美さんや詩織ちゃんみたいな空間操作魔法の使い手はかなり少ないから、そういう心配も無いだろうけれど」


 と俺が言った時。


「呼ばれて飛び出でじゃじゃじゃじゃーん、なの、です……」


 詩織ちゃんが玄関口に姿を見せた。

 扉を開けた気配は無いから怪しい空間経由で直帰したのだろう。


 ただ、ちょっと声に元気がない。

 何だろう。

 詩織ちゃんは入ってきてそのまま俺達の横を通り過ぎ客間方面に向かう。


「疲れたのです。筋肉疲労の為露天風呂プリーズなのです」

 俺達が始めて見るような疲れた感じでずるずると客間に消える。


「どうしたんだろう。あんなに疲れた様子は初めて見るけれど」

「私もです。ちょっと様子を見てきましょうか」

 確かに俺も心配だ。


「お願いしていいか」

「ええ」


 香緒里ちゃんは一度自分の部屋に戻り、浴衣とタオルを持って客間に消える。

 風呂に入りながら様子を見るつもりらしい。


 同行するのはちょっと憚られるので俺は一人だだっ広いリビングに残される。

 会社関係の作業は終わったのでやることがない。


 しょうが無いのでネット閲覧をやっていると、スマホがメッセージ着信を告げた。

 見るとSNSに世田谷からメッセージが入っている。

 杖の事で相談があるからこれから行ってもいいか、という内容だ。


 研究室の連中は俺がこのマンションに住んでいること、薊野姉妹やジェニーと同居していて学生会のたまり場になっている事を知っている。

 なのでまあ来ても問題ないだろう。


 一応香緒里ちゃんと詩織ちゃんにも聞いてみる。

 俺の部屋に入って窓を開ける。


「これからここに研究室の同僚が来たいと言っているけれど、呼んでいいか」

「大丈夫です」

「大丈夫なのですよ」


 2人から返事が返ってくる。

 あと詩織ちゃんの返事が大分いつもと近い状態になっている。

 よしよし。


 俺はSNSで世田谷に返事をして、一応台所でお湯を沸かしておく。

 何にも無いけど紅茶くらいは飲むだろう。

 菓子は、代わりに適当なのをプリン貯蔵庫から出せばいいか。


 考えてみればこの部屋に学生会関係者以外が来るのは始めてかな。

 そんな事を思いながら適当に準備をすすめる。

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