第344話 レシートは10万円以下
俺は一度自分の部屋に戻る。
洋服ダンスの左奥に俺の資材の予備がある程度入っている。
学校だけでなく自宅で色々思いついた時用だ。
必要だと思われる材料は一通り揃えてある。
使うのは共通の材料のほか、空間魔法、寒冷魔法、医療魔法用の魔石と紅水晶。
よし、材料は全部あるな。
俺はカバンからヘリテージ1号を取り出し、複製魔法を発動する。
ほぼ3分間で予定通りのものが完成。
軽く魔力を通して確かめる。
うん、1号よりも2号よりも微妙に出来がいいな。
複製魔法に慣れたせいかもしれない。
という訳で作成したばかりのヘリテージ3号を持ってリビングに戻る。
ちょっと反省している風遊美さんに3号を渡す。
「2人で1本使うよりはこの方が安全でしょう。でも無理はしないでくださいよ」
「え、でもこれ、いいのですか」
そう言っている風遊美さんの横で、
「ブーブー」
ブーイングしている奴がいる。
「煩い、だまらっしゃい!」
「ブー、ブー、修先輩は私に厳しいけど風遊美先輩には甘いのです。これは差別です差別反対なのです謝罪と賠償を要求するのです」
「あまり好き勝手言うと杖を取り上げるぞ」
「あれは約束済みなので次の新型が出るまで私のなのです。なのでとりあえず賠償を要求するのです」
そう言って出したのは3枚のレシートと1枚の領収書。
レシートの項目を見ると、どうも今回の温泉旅館化に使用したものらしい。
領収書の方は浴衣と羽織の代金のようだ。
「わかったわかった。これは払ってやる」
そう言いながら俺は何故レシートが3枚に分かれているか気づいた。
「これ、レシートがそれぞれ10万円以上にならないようにしているのは確信犯だな」
「10万円以下にしておけば消耗品などとして全額損金経理処理が出来るのです。だからレシートは10万円にいかないように分けて会計しておけと親父に教えられたのです」
何だその悪すぎる英才教育は。
「とんでもない親父だな。でもまあ正解だ」
俺はレシートと領収書を持って自分の部屋に戻り、洋服ダンス右奥にある金庫を開けて現金と封筒を用意する。
そろそろ手持ちが少なくなった。
近いうちに銀行で下ろしてくる必要があるな。
詩織行きと理奈行きの袋を作って、それぞれちょうどの金額を入れる。
そして部屋に戻る。
「おいよ、代金精算」
詩織ちゃんは金額を確認して片方を理奈ちゃんに渡す。
「よーし、夏の活動資金ゲット!」
おいおい。
「俺は浴衣代を返しただけだけどな」
理奈ちゃんはにやりと笑う。
この子の笑い方は相変わらず悪そうだ。
「この業者は私の懇意の業者なので少しだけバックが有るのです」
「あー、癒着だ!悪徳商人だ!」
愛希ちゃんが指を指して非難。
しかし理奈ちゃんは平然としている。
「この業者さんに廃業されては私のコス入手先が減るので困るのですわ。皆さんもどうですか。コミケ前の繁忙期を除けばテキスタイル物は何でも1品から作ってくれて安いし早いですよ。さしあたっては聟島温泉のペナントでも……」
「こら、こんな処で営業するな」
理奈ちゃんはルイスに軽いチョップを食らう。
そのついでに彼女はばさっとわざとらしく倒れて顔を抑える。
「目、目がああっ!」
「あのー、いつもこんな感じなのでしょうか」
1年生の綱島さん?が香緒里ちゃんに尋ねる。
「ここまで酷いのはめったに無いです。でもまあ、近い状況は……たまには……」
いや、と俺は思う。
いつもでは無いけれど、結構あるぞ。
しかも年々酷くなっている、絶対に。
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