第343話 聟島温泉営業中?(2)

 露天風呂をひと目見た瞬間。


「何だこれは」

と思わず口に出してしまった。


 少なくとも今朝までは今まで通りだった露天風呂がかなり様相を変えている。

 樽湯の背後と左右には造花らしい笹垣が並び、コンクリだった筈の足元は玉砂利を固定したものになっている。

 所々に自然石っぽく見えるおそらくは模造石が置かれ、更に飛行機械スペースとの境も竹垣になっている。

 要は完全に日本風の露天風呂っぽく仮装されている訳で……


 珍しくいつもの樽湯でなくぬる湯の方にいるルイスに聞いてみる。


「これ、いつの間に改装したんだ」

「今日の4限以降を潰して風遊美さん監修の元、詩織とロビーでやったそうだ」

「材料は全部揃っていたデス。だから簡単だったデス」


 確かにこれは風遊美さんとか香緒里ちゃんの好み系だよな。

 詩織ちゃんならダビデ像くらい作りかねないから。

 そして湯質まで変わっている。


「ろ過装置にも手を入れたデス。一部の温泉の元は濾過されすに循環しているデス。洗い場の関係もあるのでメイン浴槽と樽湯だけデス」

「何かもう、完全に温泉旅館のノリだな」


 冗談ではなく聟島温泉旅館になる日は近そうだ。

 でもまあ、男女混浴ではなくなったしいいとするか。


 よし、今までは女性陣が多くて試せなかったサウナと歩行湯を試しに行くぞ!

 ヤケか悪ノリかは自分でもよくわからないが、そんな感じで始めてこの屋上露天風呂を満喫させてもらった。


 ◇◇◇

 

 ヤケになったついでに風呂上がりに浴衣を羽織る。

 何気になかなか着心地がいい。

 イグサ製スリッパでペタペタと部屋を出る。


「どうだったのですか、露天風呂改装は?」

 詩織ちゃんの質問に正直に答える。


「残念ながらいい出来だ。それは認める」


「本当は歩行湯の中心にダビデ像を作ろうとしたのですが皆に全力で反対されたのです」

「それは確かに反対する方が正しいだろ」


「あとマッサージチェアを作れば温泉旅館化計画は一応の完成なのです」

 いやこれ以上やらなくていいから。

 既にもうやりすぎだから。


「更に温泉旅館の名前を決めてジェニーさんにマスコットキャラと手ぬぐいを作って貰えば完璧なのです」

「いやそれはもういいから」


 でもマッサージチェアがあれば確かに気持ちいかもな、なんて考えてしまい慌てて頭の中から雑念を払う。

 と、今度はカラオケで1曲歌い終えた風遊美さんがこっちにやって来た。


「どうでした、露天風呂の改装」

「雰囲気は大分出ていましたけれど、材料とかはどうしたんですか」


「浴衣と羽織は理奈さんがお店を知っていました。露天風呂の資材は実は詩織さんが知っているというお店に2人で買いに行ったんです。昨日港に荷物が着いたそうで、今日の3限終了後に詩織さんに受け取ってもらいました」


 どこの店かはだいたい想像がつく。


「詩織、またジョ●フル本田に行ったな」

「月曜にこっそり風遊美先輩と千葉ニュータウンデートをしたのですよ」


 やっぱり……

 ふと一瞬、微妙な疑念が頭をよぎった。


「まさかと思うますけど風遊美さん、詩織ちゃんの杖を使ってこっそり東京お出かけなんてしていないですよね」

 風遊美さんが露骨にうろたえる。


「そ、そんな事、する訳は……ちょっとだけです。2回程……」

 やっぱり。


「詩織ちゃん、まさかと思うけれどその杖で色々やる事を認めさせるため、プリン保管庫の時みたいに皆を本土で買ってきたパンや食べ物で買収していないよね」


 あ、あからさまに全員がそっぽを向いた。

 それこそ風遊美さん香緒里ちゃんジェニーから愛希ちゃん理奈ちゃんロビーまで。

 それどころか新1年生2人も既に買収済みの気配が……


 様子を見る限り、堅物のルイス以外は全員買収済みのようだ。

 おいおいおいおい。

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