第337話 研究室ゼミ第一回(1)

 さて今日は金曜日4限。

 最初の卒業研究の授業だ。


「この研究室には卒業研究又は制作の課題として魔道具制作をあげた学生が配属された訳だが、その方針でいいんだね」


 全員が頷く。


「ならまずはお手並み拝見といこうか。田奈先生がそれを認めたという事は、それなりの土台をもう作っているんだろ。こんな感じに」


 新地先生はそう言ってタバコの箱程度の大きさの装置を机上に出す。


「これは僕の高専での卒業制作の汎用型魔力電池。ここの魔力導線から魔力を出力する装置で、効果は半永久的。まだ魔法特区外持ち出し禁止なのでせいぜい協定を結んだEUや北米の特区で使っている位だけれども。充電池と違って何時でもそのまま使える」


 いきなりとんでもない代物が出てきた。

 これを量産すれば魔力がない人間でも魔道具なり魔法機械を使用可能だ。

 産業界に与える衝撃を考えれば、確かに特区外持ち出し禁止も頷ける。


「という感じで一人ずつ今日持ってきた魔道具を見せてくれ。ここにいるのは全員審査魔法のB以上持ちだから杖の名前以外の解説はしなくていい。では時計回りで恩田君から」


 確かに自分が開発した最新又は自信作の魔道具を持ってくるように、という事前指示があった。

 これがゼミにどう関係するのだろう、

 そう思いながら俺は状況を見ている。


 恩田君は一見シンプルなグリップとシャフトの木製杖を取り出す。


「グラウコーピス。基本的には量産前提の攻撃魔法用の杖です」

「その際は手間をかけたな、申し訳ない」


 新地先生の苦笑いと言葉の意味はこの場の全員が了承済みだ。

 さて、これが横流しした杖か。そう思いつつ俺は審査魔法を発動する。

 実はある事情で俺はこの杖についてはよく知っている。

 でも一応念のために再確認。


 基本的なメカニズムは玉川先輩設計のヤグルシに近いが発振系統が更に高効率化している。

 構造は洗練されていてかつシンプル。

 それでいて増幅率も俺のテュルソスのオリジナルより上。

 製造もちょっと工作知識があれば誰でも作れそうだし量産も難しくなさそうだ。

 ただ微細領域での操作性がちょっと不安かな。


「私のは残念ながら自作ではありません。授業以外用として恩田君に作ってもらった物です」


 そう言って世田谷さんが出したのは見慣れたヤグルシ。

 玉川先輩設計による創造制作研究会のベストセラーな杖だ。

 俺の設計したヴァナルガンドの再設計版であるヨルムンガンドの再設計改良版。


 玉川先輩が手を入れただけあって元のヨルムンガンドの理論こそ引き継いでいるが構造は大幅に変わっている。

 安くて頑丈で使い易く性能も一線級。


 ただ審査魔法で見ると内容は市販品のヤグルシとは別物だ。

 増幅機能も固定2倍と強力だがきっとこの杖の最大の特徴は発動の恐るべき早さ。

 その分使い心地が恐ろしく神経質な筈。

 これを使っているという事は魔力制御に相当な自信があるのだろう。


「私の番だな」


 等々力君が出したのは杖ではなく高さ5センチ直系3センチ位の円筒形の物体。

 審査魔法で見ると確かにこれも杖と同等な魔力制御具だ。


 魔力導線と魔石の共振と位相整形による増幅機能が入っている。

 俺の知っている理論と違う形だ。

 つまり現有理論とは少しだけど違う原理。

 ヤグルシあたりに取り付ければ凶悪な増幅が出来るだろうが反応速度はやや劣る。

 きっとこの機械の本質はそういった使い方ではない。


「埋め込みか機器制御用か」

「現状はそれ以前、理論実証用だな」


 成程、意識して今の理論を使わず超えてきたか。

 次は俺か。

 持ってきたのはヘリテージ1号だ。

 出した瞬間、ふっと空気が変わったような気がした。

 全員が審査魔法を使っているのがわかる。


「……えらく高性能な杖です。製造コストは別ですが」

「と言うか、この時点で完成品じゃないのですか」


 恩田君と世田谷さんがそう言う中、等々力君と高井戸君はにやりと笑う。


「これは随分と凶悪な目印だ」


 その一言で等々力君がこの杖の意味を理解した事がわかった。


「なら僕も出すか」


 のほほんとした口調で出した高井戸君の杖は一見ただの木の棒。

 整形こそしてあるが何の機構も入っていない。

 それでも審査魔法を使うとわかる事がある。

 魔石も魔力増幅機構も魔力導線すら通っていないのに、約2倍程度の魔力増幅効果がある。

 既存のどんな理論も無視した逸品だ。


「凄いな、これ」


 俺を含め全員が思わず見入ってしまう。


「現有理論等は誰かがやるだろうと判断した。だから古典とか歴史とか、伝説とか言い伝えから共通点等を抽出した。試作品は出来たが理論はまだ未完成」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る