第326話 飯をたかりに1万km(2)

 奈津季さんはすぐに戻ってきた。


 まずはバゲット2本を入れたかごと取り皿3枚を持ってくる。

 そして次の往復でハムとチーズの塊をそれぞれ3個ずつ持ってきた。

 あとバターとバターナイフ。

 最後はカップ3つとポットだ。


「こんな物しかないけどいいかい」

「充分なのです」


 ハムもチーズも全部違う種類だ。

 バゲットもそれぞれ違っている。

 だが詩織ちゃんはハムにしか目がいっていない感じだ。


「修、パンとハムとチーズ適当に切ってくれ」

 いいのだろうか。

 ここでの値段はわからないが日本で買えばどれもかなり高いぞ。


「すみません。あとでお代は払います」

「大丈夫大丈夫。香緒里がバイト代弾んでくれたしさ。それにこっちじゃハムやチーズは安いんだ。特にチーズはカマンベールの本場だしさ」


 ならばとパンはとりあえず2センチ幅、ハムとチーズはとりあえず3ミリ程度に5枚ずつ切ってみる。


「それでは、いただきます」


 言い終わると同時に詩織ちゃんがハムを1枚つまみそのまま口に運ぶ。


「うーん、風味豊かだけどちょっとしょっぱいのです」

「それはジャンボン・ド・クリュ。生ハムだから塩気が強いかな。チーズとバゲットと一緒に食べれば美味しいよ」


 そう言いながら奈津希さんは紅茶を各々に注いでくれる。

 そして自分はパンではなく、詩織ちゃん購入のお土産を取り出した。


「お、長野の平五郎か。この店は遠くて行けなかったんだ」

「時間が辛いので生ケーキは流石に無理なのです。なのでケークオキューブで残念だけど我慢して欲しいのです」

「充分充分。うむうむうむうむ。やっぱり日本の洋菓子は美味いよな」


 その間に理奈ちゃんはハムとチーズを交互に2枚ずつ重ねた豪勢なサンドイッチを作って食べている。

 俺もチーズと白っぽいハムをバゲットに乗せて食べてみる。

 うん、精進料理も悪くはないけどこれも美味しいよな。


 奈津季さんセレクトだけあって、パンもチーズもハムもなかなか美味しい。

 そのせいか詩織ちゃんも理奈ちゃんも凄い勢いで食べている。


 食べつつもすごい勢いで減っていくパン、チーズ、ハムそれぞれを追加で切っておく。

 そうとう肉類に飢えていたかな、これは。

 昼食もパンケーキだったらしいしな、女子組は。


「しかし詩織もとんでもないよな。まさか本当にここまで来るとは思わなかった」

「修先輩のおかげなのですよ。口外無用の凶悪兵器をレンタルする契約をしたのです」


 おいおい、口外無用を口に出すなよ。


「良ければ後でちょっと見せてもらっていいか。どんな代物か見てみたい」

「いいのですよ、はい」


 詩織ちゃんはどこからともなく杖を取り出して奈津希さんに渡す。

 奈津希さんは受け取って持ち替え、軽く構えてみる。


「成程な、要は僕のお守りのフル機能版ってとこか。全属性対応にして増幅重視にして」

「正解です。機構そのものは例のボールペンの正常進化版ですね」


「でもまさか、これを量産するなんて怖い事言わないよな。由香里さんとかルイスのような強力な魔法使いが使ったら、それこそポーダブル核兵器とか戦略級の代物だろ」

「現に強力かつ凶悪な魔法使いが使っちゃっていますけどね。腹減ったという理由で」


 当の本人以外の3人が苦笑する。

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