第324話 はらぺこあおむし+αの来襲

 宿坊なので夜は早い。

 夜9時門限で外に出られなくなる。


 ただ部屋は昨日の宿に勝るとも劣らない感じに雰囲気がいい和室だ。

 部屋の鍵もちゃんと閉まるし問題はない。


 なお、今回は寺に宿泊なので一応男性女性部屋を分けている。

 布団を持って移動すればいつも通りにも出来るのだが、まあ本堂の薬師如来様の目を慮ってという感じだ。


 俺としては毎回この部屋分けでいいと思うのだ。

 何せ浴衣で寝ると朝の寝乱れ方が半端ない。

 ちゃんと整えてから起きてくれる人もいるが、半裸のまま平気で起きてくる輩もいるしな。


 さて、と。

 さっさと寝てしまったルイスとロビーを見ながら思う。


 そろそろ何か出そうな気がする。

 幽霊とか妖怪ではなく、もっと実害のあるものが。


 一応部屋には鍵をかけているが気休めにしかすぎない。

 なお、俺は浴衣ではなく着替え済み。

 外に出る可能性が高いからだ。


 門限があって鍵が閉まっていて外に出れない?

 そんな事関係ない奴がいる。

 そう、それは……


 時計の針が午後10時を示す。

 同時に暗いだけの空間に何か靄がかかったような気配がした。


「修先輩、おばんです」


 出現したのは2人。

 詩織ちゃんと理奈ちゃんだ。


「出たな、はらぺこあおむし!」


 周りの部屋に聞こえないよう、低い声で話す。


「どうせ精進料理じゃもの足りなかったと言うんだろ」

「わかっているじゃないですか」


 そんな予感はしていたのだ。

 昨日の夜の件もあるしな。


「理奈ちゃんは何故?」

「準備している処を見つかってしまったのです」

「何か面白い事が起こりそうな気配がしたので」


 ちょこっとだけバツの悪そうな詩織ちゃんと笑顔の理奈ちゃん。

 成程な。

 理奈ちゃん、普段はしれーっとしているがなかなかに曲者のようだ。


「修先輩も何気に準備済みじゃないですか」

「どうせ止めても出歩くんだろ。ならお目付け役位はいないとな」


 ルイスとロビーが寝てから、一応杖の性能の方を審査魔法その他で確認してある。

 バランサー未装着なので弱い魔力の操作性がやや悪いが、それ以外は問題ない。


「おいよ、杖」


 未完成品のヘリテージ1号を詩織ちゃんに渡す。


「ありがとうなのです。うん、これなら3人でも余裕です」


 詩織ちゃんは軽く杖を振ってみて頷く。


「ちょっとだけ借りてみてもいいですか」


 理奈ちゃんが詩織ちゃんから杖を取る。


「うーん、これは面白いですね。この増幅量があれば授業の模擬戦中に教官まとめてトラップにはめるのも余裕ですね」


 にやりと笑う笑顔が怖い。


「やるなよ」

「冗談ですよ」


いや、俺にはちょっと冗談に聞こえなかったのだが。

理奈ちゃんが詩織ちゃんに杖を返す。


「ところで靴は必要か。何なら下駄箱に取りに行くが」

「今日はスリッパで大丈夫です。向こうにも連絡済みです」


 向こう?連絡済み?

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