第316話 悪魔なゲーム(5)

 さて、嘘発見器を使ったゲームの事は忘れよう。

 そもそもあれは単なる順番決めのに過ぎない。


 本番はこれから。

 ケーキ選び当たり付きの方だ。


 去年詩織ちゃんに起こった悲劇は2年生以上は皆知っている。

 このサイダーもきっと激辛緩和対策の1つだろう。

 きっとあまり効かないけれど。


 ゲームで負けた俺に選択の余地はない。

 最後に残った1つが自動的に俺のもの。


 なお外見には特に特異点は見当たらない。

 去年とても美味しかったザッハトルテ本場バージョンを小型化しただけの模様だ。

 白いクリームもちゃんと添えてある。

 ダビデ像のような余分な細工も無い。


「それでは皆、用意はいいかい。せーのと声をかけるのでいただきますを唱和して食べる。じゃあ行くよ、せーの!」


 いただきます。

 そして俺もケーキを口に運ぶ。

 うん、このチョコのじゃりじゃり感が美味しいんだよな。

 そしてあんずジャムも……ええええええええっ!


 辛さは遅れてやって来た。

 慌ててサイダーで口を濯ぐ。

 辛さが口中に広がった。

 やばい、我慢できない、痛い。


 コップを持ったまま流し台にダッシュ。

 口の中に水を流してすぐ出す。

 何度も何度も繰り返す。


 変な汗が顔に湧いてくる。

 何度も何度も口を洗うのを繰り返す。


「今日に限っては自業自得かな」


 そんな奈津希さんの台詞が聞こえたような気がするが反応出来ない。

 味覚遮断の魔法でも使えればいいがそんな魔法当然持っていない。


「今回はアプリコットジャムに仕込んだのですよ」

「致死量では無いので大丈夫ですわ」


 月見野先輩、そういう問題じゃない。

 まだ口の中が熱いがやっと少し落ち着いてきた。

 そろそろあの飲み物が効くかな。


 俺は空のコップを持ってテーブル方面に戻る。

 サイダーを注いで一気飲み。

 うん、美味い。

 まだ辛いけれど。


「それにしてもさっきのゲーム、楽しいな。旅行でもやろうぜ」

「ソフィーさん、このゲームってパソコンとこの感知器があれば出来るのですか」

「その通りですよ。この感知器はロビーに手伝ってもらって作った私の研究用オリジナルだから持ち出し自由ですし。何ならこれを使った別のゲームも持っていきますか。色々開発していますので……」


 よし、今度の旅行は全部コンセントが無い宿で統一してやる。

 実はもう予約も全て取ってあるが全部キャンセルだ!

 という訳にはいかないよな、きっと。


「修先輩、そろそろ教えてあげます。サイダーより牛乳のほうが効くですよ」


 おい詩織早くそれを言え。


「あひはほう」


 まだ舌が死んでいてありがとうと喋れる状態ではない。

 俺は冷蔵庫にダッシュして牛乳を取り出しコップに注ぐ。

 3杯飲んでやっと普段に近い状態に近づいた。


 しかし今回は俺、踏んだり蹴ったりだな。

 なにか悪い事したかな、俺。

 心当たりはないんだけれどさ……きっと……

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