第309話 約束

「身に余る力は身を滅ぼすとも言うけどな。それに詩織ちゃんの魔力は現時点で魔法使い最強級だろ」


 あえて俺は軽めに答える。

 でも言っている事そのものは本気だ。


「わかっているのです。それでもまだまだ力が足りないのです。

 例えばこの前借りたキーホルダーと私の改造したアミュレット、あれを同時に使えば瞬間的に20倍近く増幅出来るのです。でも、それでも足りない世界があるのです」


 俺はもう気づいている。

 今の詩織ちゃんは真剣だ。


「危険な道に俺には思えるけれどな」

「それは承知しているのです。わかっているのです。それでも、それだからこそ圧倒的な力が欲しいのです」


 何に使うか何のために必要なのか俺は聞かない。

 詩織ちゃん自身については俺は完全に信用している。

 変人だけど、詩織ちゃんこいつはきっと俺より痛みがわかっている人間だ。

 常識も怪しいけれど、本当にやっていい事とやっていけない事はわかっている人間だ。


 ただ心配なのは詩織ちゃんこいつ自身の身の安全。

 何せ以前、自害しかけてまで俺と香緒里ちゃんが誘拐されるのを阻止しようとした位だ。


 あの時一撃で自分にとどめを刺さず、わざと苦しいままに意識を残した理由もわかっている。

 俺と香緒里ちゃんを不安定な空間からそれなりに安全な場所へと退避させるため。

 現にあの砂浜に着いた後、自分にとどめを刺そうとしていたし。


 そういう詩織ちゃんこいつだからこそ、信頼していると同時に不安なのだ。

 だから少し考えて、俺は条件をつける。


「譲渡はしない。ただ貸出しならいいだろう。

 条件は1つ、必要なくなったら必ず俺に詩織ちゃんおまえ自身が杖を返しに来る事。そしてその時はちゃんと五体満足でいること。

 その条件なら完成次第貸し出してやるし、常に最新最強の杖を用意してやる。

 あとこの件については口外無用。これでいいか」


 ちょっとの間。

 そして。


「うーん。仕方ないからそれで妥協してやるのです」

 あ、普段の調子に戻った。よしよし。


「という訳で、現時点最強の魔道具を寄こすのです」

 あ、戻りすぎたなこいつめ。


「残念ながらお前の持っている招き猫が今の最強だ。不服なら返してもらう」

「なら仕方ないから完成までこれで我慢してあげるのです」


 ちなみに招き猫はデータロガーを内蔵したままだ。

 ついでに詩織ちゃんこいつの魔法データも解析して杖作りの参考にしてやる。

 なにせ俺の身近にいる最強魔力保有者。

 魔力の少ない俺にとっては貴重なサンプルでもある。


「さあ、そういう訳なのでさっさと新製品を作るです」

「まだ基礎設計段階。早くとも3月位かな、完成は」

「なら、仕方ないので寝て待つのです。ベッドは借りるのです」


 おいおい、と思いつつも俺は詩織ちゃんをそのままにしておく。

 詩織ちゃんこいつは香緒里ちゃんとは違う意味でやっぱり俺の妹分なのだ。

 なのでベッドの横で寝てようがある意味構わない。

 ただ以前あった全裸出現だけは勘弁してほしいけれど。



 次の4日は雨だったのでだらだらと室内で過ごす。

 翌5日、関係者一同が帰ってきて勢揃いし、料理で食べ過ぎるまでがお約束。

 学習しない北米組と鈴懸台先輩がトド化して露天風呂の寝湯に倒れるのもお約束。


 そしてその翌々日7日から学校は始まり、いつもの生活がスタートする。

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