第308話 最強の杖
無難に風呂から出て自室で杖設計をやっていると、背後のベッドに気配を感じた。
振り返るまでもない。
「詩織ちゃんはすぐ向こうに自分の部屋があるだろ」
「このベッドが一番落ち着くのです」
おい待て、それは俺のベッドだ。
「何なら詩織ちゃんの自室のベッドと交換してやろうか」
「それじゃ意味が無いのです。ここにある事に意味があるのです」
詩織ちゃん以外にこんな会話を言われたらかなりヤバイ状況だが、生憎俺は詩織ちゃん耐性がついている。
「まあ広いからいいけどさ」
「ありがとうなのです」
自分の枕を持ってきて、さらにジェニー特製抱きまくらまでセットしだす。
まあいいけどさ。
俺はパソコンに向かい直し、杖の設計を再開する。
これはあくまで比較用の杖。
ただ現時点では最高の杖になる予定ではある。
そうでなければ新理論の比較相手に相応しくない。
新理論で作成する予定の杖がプログレスなら、こっちはヘリテージとでも名付けようか。
複数水晶による多重増幅、複数魔力導線による共鳴管、収束率調整機構、複数魔石の並列配置による属性を選ばない特性、複合多層魔法陣の配置等、今現在の理論で想定できる全てを審査魔法でシミュレートしながら配置していく。
コスト的に通常の杖の数十倍かかる品になるが、それ位は今の俺ならなんとかなる。
それにかけたコストに見合った性能は出るだろう。
今までの理論を代表するに相応しい知識集積の
「とんでもない物を設計しているですね」
後ろから詩織ちゃんが覗き込む。
「でもこれは通過点の予定なんだ。目標は新理論でこの杖の性能を打ち破る事」
「でもこの杖の時点で、もう修先輩しか作る人はいないです」
まあ実際、そうなんだろうけどさ。
「でもこの杖はあくまで俺以外の人が考えた理論を元にしているんだ。目標は俺自身の考えた理論でそれを乗り越える事。この杖はあくまで俺自身の理論に対する対比用だ。でもそれだからこそ、今までの理論を元に史上最高最強の逸品にする」
「超えられるですか」
詩織ちゃんの声。
「ああ、超えてみせる」
「なら、お願いがあるのです」
何だろう。
微妙にいつもの詩織ちゃんと雰囲気が違う気がする。
でも俺はあえて気にしない。
「何だ?」
「その新しい杖の2本目を私に譲って欲しいのです。1本目は修先輩が使うなり研究用なり大事な人用だったりするので、2本目でいいのです。
力が欲しいのです。まだ足りないのです」
そう、詩織ちゃんの台詞にいつもの遊びが無い。
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