第302話 事情聴取嘘発見器付
「私の知っている限り、攻撃魔法科の前後の代にはひであきって学生はいなかったわ。随分親しそうな感じに聞こえたのは気のせいかしら」
奈津希さんが固まる。
見事なくらいに固まる。
「まあ奈津希が答えないなら修に聞くけどね」
おいおい、やめてくれ。
どう答えればいいんだ。
「ついでに言うと修には拒否権は無いから。本人は話す気が無くてもね。そうよね朱里」
頼む月見野先輩、真っ当な意見で由香里姉を止めてくれ。
「そうですわね。基本的人権も公共の福祉の前には制限を許されるものですし。幸い私が4年次に開発した『楽しい気分になって何でも話したくなる愉快な魔法』がありますので障害は無いですわ」
おいおい自白魔法まであるのか。
そして周りは誰も止めようとする良識者がいない。
風遊美さんと香緒里ちゃんはほぼ事情を察したらしく普段と変わらない様子を装っているが、他の面々は興味津々という感じが見え見えだ。
ソフィーに至っては怪しいマイクと見覚えのある分析ソフト入りノートパソコンをジェニーの部屋から持って来て操作開始し始めたぞ。
うーん、しょうがない。
「俺の世話になった先輩ですよ。奈津希さんとは親が知り合いだそうです」
「ふーん、それで」
由香里姉は当然の事ながらそれだけでは納得しない。
「それだけじゃないですか」
「ソフィー、判定どうれすか」
「修先輩の最初の解答はニュートラル、嘘ではないが全てではない。
次の解答はダウトです」
ソフィー、そのパソコンというかマイクと併せた装置って、まさか。
「声の調子と放出魔力で診断する嘘発見器ですよ」
そんな物持ち込まないでくれ!
「いいものがあるのね」
「私の頃にはありませんでしたわ」
この場の2巨頭が興味深げにソフィーのパソコンを覗き込む。
「この数値が大きければ動揺している、と見ていいのね」
「そうです。声はある程度操作出来る人もいますが、身体からの魔力放出と併せれば誤差はトーリトーです」
「ならばこれを見ながら修に質問すればいい訳ね」
「では修君に質問ですわ。修君は奈津希さん言うところのひであきさんを知っている」
俺は返事をしない。
返事をすると声を分析されるからだ。
「有意の反応あるです。知っていると判断されます」
返事をしなくても分析されるようだ。
俺が知っている状態より性能が上がっていやがる。
「では第二問。ひであきさんは高専の学生、または卒業生である」
「その通りの様ですね」
不意に蒸し暑くなってきたような気がする。
俺の気のせいだろうか。
いや。
霧のようなものが覆い始める。
温度からしてこれはただの霧ではなく飽和水蒸気が霧化したもの。
ミストサウナもかくやという感じに。
そして何故か肌にビリビリした危険な感覚が。
これがどんな現象かは、もう俺だけでなく全員が察していると思う。
例えば
これはきっとそれと同じ現象。
「ねえ、そんなに他人の話って、楽しい?」
怖めの笑顔で低ーい声でそうつぶやく奈津希さん。
帯電が肌で感じる程なので、他の魔法で相殺する事も出来ない。
そして解除可能な電気制御魔法を使える人間はこの中にはいない。
酷暑の中皆が凍り付いたように動かない。
でも俺の視界の隅で、ささっとノートパソコンをケースに仕舞いこむソフィーが見えた。
なかなか冷静だな、ソフィーちゃん。
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