第300話 主役硬直中

 まずは由香里姉から。


「月並みだけど成田山の御守よ。向こうで災難等が無いようにって」


 そして鈴懸台先輩は、またもや手書きの怪しい券だ。


「うまく思いつかなくてさ。だから『欲しいものを5000円以内まで日本で買って送ってあげる券』だ。送料は別」

「私のは非常用のお薬ですわ。内服外用いずれも可能、1回分だけですけれどね」


 と月見野先輩。


「私のはレターセットです。何かあれば何でもいいので書いて送って下さい。メールのほうが速いけれど、手書きで書きたいときもあると思いますから」


 風遊美さんの次は俺の番。


「見たとおりのボールペンです。飛行機内でもいつもの生活でも身につけられると思います。あくまでただのボールペンですから。芯も交換可能です」

「私のはペンダントネックレスです。普段付けていなくても、何かあれば出してみて私達のことを思い出して下さい」


 香緒里ちゃんのペンダントネックレス、例によって魔法効果がついているようだ。

 幸運ではなく厄除けに近い感じだが。


「私のは抱きまくられすよ。カバーはここにいる13人分描き下ろしなのれす。寂しい時にはお気に入りのカバーをかけて抱いて寝るといいのれす」


 ジェニーのについては、後でどんな絵かを確認したい。

 特に俺を描いた分、まさか裏面はだけてないよな。


「僕のもネックレスだ。魔法使いに魔除けというのも変もしれないが、僕の故郷で幸運を呼ぶ魔除けとして伝えられているシンボルだ」


 ルイスのはシンプルで綺麗なデザインだ。


「私のは言わぬが花の秘密装置ですよ。何かあったら魔力を注いでボタンを押して欲しいのです。効果は言わぬが花なのです」


 詩織ちゃんの装置は魔法発電装置とバッテリー、GPS受信機、何かの発信機がついている事くらいしか俺の魔法でもわからない。他にも怪しい装置が入っているけれど。


「私とロビーのは共同です。魔力充電式のタブレットパソコンです。とりあえず日本のコミックや小説の無料版も入れてあります。向こうで日本語に飢えたらどうぞ」

「SIMも入れられるしWifiも使えるデス。ネットも出来るデス」


 確かにこれはいいかもしれない。

 日本語の何かを読みたかったりしたら便利だ。


「私のも御守だ。出雲大社の縁結び。ストラップタイプなので何かに付けて欲しい」


 愛希ちゃんのは絵馬型のかわいい御守だ、

 御守としてだけでなくストラップとしても可愛いかも。


「私のはそれ以上開けないでそのまま荷物として向こうに持っていく事をお勧めします。中身は100円の日本風手ぬぐいが30枚入っています。簡単な個別包装済みですから向こうでお世話になった人等に配って下さい」


 と理奈ちゃん。

 成程、こういう方向性もありだよな。


「ああ、皆、ありがとう……」


 何かまだ、奈津希さんは微妙に固まったままだ。


「もう奈津希、ちゃんと皆にお礼して」

「だってさ、何か嬉しくて……こういうの、実は慣れてないからさ」


 涙が出そうなのをこらえている感じ。

 俺達は奈津希さんの言葉が出るのを待っている。


「本当、勝手に独りで向こうへ行くことを決めて、相談も何もしないで、本当は独りでこっそり出ていこうとしたんだけどさ。そんなに勝手な僕なのにありがとう、皆。

 正直言うと今のこの環境、大好きで仕方ない。凄く離れがたいんだ。でもいずれやりたい事があって、そのためにはどうしても必要な気がするから僕はしばらくここを出る。ただ、2年先か3年先かわからないけれど、必ず戻ってくる。必ずもどってくるから……」

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