第293話 刀で見えた今と前

 そんな騒ぎの後も勿論学園祭は続く。

 今年は晴れが続いていて人出がとにかく多い。

 そして週末の土日に最後のピークを迎える。

 そして今日は土曜日だ。


 ルイスはついに滅多斬り大会決勝出場。

 相手はまたもや鈴懸台先輩。


 この学校に他に人はいないのか、と言いたくなるが実際ルイスは相当に強い。

 まだ2年生なのに3年、4年、5年の猛者を食いまくっている。

 まあ5年攻撃魔法科筆頭は奈津希さんで出場していないし、4年、3年の筆頭は由香里姉と同じ完全魔道士タイプでやはり出場していないのだけどさ。


 ただ俺は決勝戦を残念ながら見ることが出来ない。

 今いるのは賑わいからちょっと離れた学生会工房。

 俺以外にいるのは香緒里ちゃん、詩織ちゃん。

 それと例の居合い斬りの達人さんだ。


 達人さんから刀を作っている工房を見たいという要望があったので案内している。

 まあ基本的に説明は香緒里ちゃんと詩織ちゃん任せ。

 俺は責任者という名の付き添いだ。


「面白い。魔法というからもっと不可思議なものかと思ったが、思った以上に現代的で工学的なんだな」

 達人さんは興味深げに香緒里ちゃんや詩織ちゃんの刀作りの解説を聞いている。


「魔法と言っても物理学や化学を否定するものでは無いですから」


 香緒里ちゃんも詩織ちゃんも一見フィーリングで刀を作っているように見えるが、実は工学的解析も相当にやっている。

 最初に取り入れたのは香緒里ちゃんで、自作の刀をモデリングしコンピュータで強度計算と構造解析を実施。

 材料に求められる性質等を分析して鋼の成分割合を調整。そうして作ったのが例の『村正』だ。

 当然詩織ちゃんも同じ考え方を取り入れている。


 なまじ2人共審査魔法を使えない分、理詰めで作る部分が実はかなり多い。

 結果、表面的にはそう見えなくても現代の工学的知識に裏打ちされた明快な品質の刀となっている。


「きっと刀も実用品としての命脈が続いていたら、こんな形に進化したのだろうな。こんな事他所では言えないが」

 達人氏はそう言って苦笑いする。

 昨年の騒動を思い出したのだろう。


「それに昨年と比べて作っている刀も進化しているな。切れ味自体は変わらなくとも、思想的に」


 どういう事だろう。


「今年の刀を双方貸してもらって試し切りをした。

 その後で念のため持ち込んだ去年の刀で試し切りをした。

 その上での感想だ。

 私は刀馬鹿だからそれ以上の事はよくわからない。それを承知で聞いて欲しい」


 俺達は作業場のパイプ椅子に座って、達人氏の話を聞く。


「昨年の場合はどちらもよく切れる実用的な刀だったが、少し強い癖があった。

 片方は前のめりに攻めの刀だった。重心がかなり先に近く、そして刃が固い刀だった。試し切りにはいいが怖い刀だった。自分独りになろうと先へ先へ斬り進んでいく。折れるまでとにかく斬って斬って進んでいく。そんな強いけれど怖い刀だった。


 もう片方は守りの刀だった。さっきの逆で重心が手前で刀全体がやや柔らかい。言うならば自分独りであろうとその場から敵を一歩も背後へやらないという刀だ。絶対に折れない。刃がボロボロでも最後まで欠けない。どんな事態にも独りで対処できる。味方が他にいなくとも。そんな強いけれど悲しい刀だった。


 勿論今年の刀もやっぱり片方は攻撃型で片方は防御型だ。でも去年あった尖りは無い。去年の刀を構えた時の視野が自分に斬りかかる3メートル圏内のみだったとしたら、今年はもっと全体、自分を含めた味方全体を見ながら刀を振るえる感じだ。


 切れ味そのものはきっと昨年と同じだろう。評論家としての面白さなら去年の作品の方が個性が尖っている分面白い。でも今年の刀のほうが安心して振るえる。

 それはきっと作った人の進歩なんだろう。刀馬鹿として俺はそう思う」

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