第288話 そして僕はまた引きこもる

 良かった……

 そう思うとともにどっとくる疲れ。

 元々俺は弁舌達者な方ではないのだ。

 そういう普段使わない部分を使うと、当然副作用が出てくる訳で……


「という訳で、ここで俺に7分程時間を下さい」

 そう言って俺は立ち上がる。


「どうしたの、修兄」


「ちょっと出てくる。すぐ戻る」

 そう言って俺は有無を言わさず歩きだす。

 皆が行動を起こす前に部屋を出て扉を閉める。


 でも、まだ逃げるわけではない。

 ちょっと出て戻ってくるだけだ。

 階段降りて外出て工房に入り、俺のロッカーから目当ての物を取り出して学生会室に戻るまで大体7分。

 もっともらしく学生会室の扉をノックする。

「長津田です」


「もう……」

 それは許可と判断して扉を開ける。

 入った勢いのまま風遊美さんとエリカさんの前へ。

 工房から持ってきた2本の魔法杖を2人の前に置く。


 生命のテュルソス最終バージョン、外科用と内科用の量産先行試作品だ。

 2本ともこのままでは性能が高すぎて一般相手に市販出来ない。

 だから市販に回したのはこの杖をデチューンしたもの。

 でも相手がわかっているなら譲渡してもいいだろう。


「風遊美さん翻訳して。『あなたの大事な風遊美さんを散々振り回したお詫びとして、粗品ではありますがお詫びの品をお持ちしました。どちらか気に入った方をご査収ください。以上』」

「えっ」


 そう言いつつも翻訳を始める風遊美さんを確認。

 次は香緒里ちゃんだ。


「香緒里ちゃんごめん。ちょっと要件があるから出かける。次のシフトには戻るし何なら無線連絡入れて。じゃあよろしく」


 そして今度こそ、俺は問答無用で脱走する。

 そろそろ副作用が始まりそうだから。


 でも真っ直ぐ第1工作室に逃げるのも芸がない。

 なのでちょっと寄り道をしていく。

 そして俺が寄り道できる場所もそれほど多くない訳で……


 本日2度目の創造製作研究会の売店だ。

 そしてお目当ての人間は直ぐに見つかった。

 例によってキッチン側で休憩している。


「どうした長津田。微妙に景気悪そうな顔しているな」

 江田先輩だ。


「こっちは景気良さそうですね」

「まあな。半分以上は玉川が出来るようになったしな」


「玉川先輩ももう卒業ですけどね」

「それでちょっと困っているんだ。次は誰を鍛えようか」


 あたりの空気が凍ったような気がするが俺には関係ない。


「去年の豆大福のお礼です。問答無用で受け取って下さい」

 例のボールペン型魔法の杖を渡す。


「えっ……おい、こんな物いいのか」

 流石検定魔法持ち。すぐ気づいたか。


「問答無用。当方オーバーヒート中で説明にリソースさけません」


 不意に江田先輩はにやりと笑う。

「長津田、お前またやり過ぎたな」


「やりきった、ですよ」

 そう応えつつ俺は思う。

 相変わらず俺が何も言わなくても俺の状態を把握しやがる。

 これだから江田先輩には1年の時から頭が上がらないのだ。


「お前のやりきったはやり過ぎたと同義語だろ。全く」


 そう言って江田先輩は横の戸棚から小さい紙包みを取って俺に渡す。


「お前のやりきったとやり過ぎたは同義語だからな。悪いが俺はお前のその辺を、お前以上によく知っている。

 だから今はこれでも食って独りで少し頭を冷やしてこい。

 甘いものでも食べて冷静になれ。多分やり過ぎた以上の成果に気づく筈だ。

 その成果を誇ってもいい気分になれたら、戻ってまた後輩の面倒を見てやれや。


 大丈夫、何回でも言うがお前のやり過ぎたとやりきったは同義語だ。だから冷静になれば弊害の数倍以上の成果があった事に気づける筈だ。

 それは俺が保証してやる」


 じゃあまあ、今回も言葉に甘えさせてもらおう。

「ではこれ、頂いていきます」

「おう、さっさと出て行け」


 俺は創造製作研究会の売店を離れ、今度こそ第1工作室に向けて歩きだした。

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