第274話 こんな面倒も悪くない

 上前津駅からぐるりと大須観音経由で商店街を回り、さらに矢場町方向に抜けて栄までのんびり歩く。


 気づいたらもう地下街の外が暗くなっていた。

 デパ地下や閉店間際の店等で惣菜やツマミを買いこんで、ホテル近くの100円ローソンでドリンクを買って宿へと戻る。


 広い部屋には他にはルイスしか戻っていない。

 後は例のスイーツビュッフェに行っているのかな。


「お疲れさん」

 と挨拶して、そしてテーブルに今日の戦利品を広げる。

 鶏手羽先とか天むすとか鶏唐揚げやいなり寿司、味噌ヒレ串かつにどて煮等々、まあ名古屋系っぽい定番の惣菜だ。


「ルイス、皆が帰ってくるまで軽くやるか」

「それは修先輩の食事用ではないのか」


「いつもの癖でさ、つい買いすぎてさ」

「なら頂く。ありがとう」

 という訳で2人でのささやかな夜会。


「しかし最近、つい大人数分買う癖がついてしまってさ。どうもいかん」

「その感覚はわかる。僕も今なんてうるさいのがいなくて楽な筈なのに、何故か物足りない」


 俺は頷く。

 ルイスの言っていることは良くわかる。

 俺も昼間独りで散歩中、感じていたから。


 俺は串かつを手に取る。

「例えばこれなんか、売っていたら絶対飼い食いする奴がいるな、とか」


 ルイスは苦笑した。

「あいつは3串くらいは平気で食べそうだ。奈津希さんならもっと甘いものかな」

「だな、今頃はスイーツ食べ放題を……あれ」


 外から聞き覚えのある声の集団が近づいてくる。


「ただいまなのですよ。あ、それ頂くです」

 いきなり詩織ちゃんに串かつ1本取られた。


「あれ、今日はスイーツビュッフェじゃなかったのか」


「終わったところ。午後7時から70分勝負だからさ、ゆっくり帰って来た処」

 そう言いつつ、奈津希さんは天むす1個を分捕る。


「ちょうどよかった。スイーツビュッフェだからさ。甘くないのはスパゲティ位しかなくて」


「ビュッフェだから十分食べてきたんじゃないですか」

「スイーツは別腹、って言うだろ。別腹じゃないほうがまだ足りないんだ」


「いただくますデス」

 ロビーも天むすを取りやがった。

 まあ食べられていいように多めに買ってあるけどさ。


「だったら少しは自分の食べる分も買ってきて下さい」

「8時過ぎると店が閉まっていてさ、コンビニ弁当もちょうど切れてた」

 俺が厳選した名古屋らしい惣菜類が瞬く間に減っていく。


「この手羽先美味しいれす。最後の1個もいただくれす」

「あ、ジェニー。それ俺もまだ食べていないのに」


 デパ地下で買った手羽先甘辛揚げ、10個入りだった筈なのにもう1つもない。

 見るとしっかり風遊美さんまで食べているし。


 何だかな、と思いつつも悪い気はしない。

 このごちゃごちゃして面倒な生活も、きっと俺は気に入っているのだ。

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