第272話 猛獣対怪獣観戦記

 まだ頭の中を何曲かリフレインしている。

 俺のスマホにも入れられているし。


「4曲ともニコニコ動画の曲ですから心おきなく聞いて覚えるですよ。とりあえずこの3曲とデュエット1曲は東京決戦までにマスターするです」


 どれも割とメジャーなカラオケ曲らしい。

 何がメジャーなのか俺にはよくわからないが。


 いずれもテンポのいい曲で、特に1つは早口言葉に近い感じだ。

 しかしこんな曲が流行っているのだろうか。

 俺は今まで聞いた事が無いのだけれど。


 そして詩織ちゃん、最後に歌った異様な超早口の入るあの曲は何だったんだ。

 人間の曲じゃないぞ、それ。

 まあ人間じゃなくてボカロの曲なんだろうけどさ。


 さて、今日は真っ当に名古屋観光の予定だ。

 名古屋城を見てひつまぶしを食べて大須の商店街をぶらっと散歩して……

 と思ったら詩織ちゃんに捕まった。


「何処へ行くですか」

「いや、名古屋に来たんだから名古屋城を見てひつまぶしを食べて大須の商店街……」

「今日は朝からカラオケ店が開いているのです。フリータイム料金でお得に特訓なのです」


 止めてくれ。


「面白そうだな。僕も混ぜてくれないか」

 あ、猛獣様なつきさんがやって来た。


「いいですよ。敵に不足ないのです」

「よし、行くぞルイス!」


 不運にもすぐ近くにいたルイスが捕まった。

 犠牲者が俺の他にもう1人追加だ。

 他の皆様はとっくに逃げている。


 4人で昨日夜にも行ったカラオケ店へ。


「まずはジャブですよ」

 と、詩織ちゃんは良く歌っている派手派手でエイリアンな歌を歌う。

 俺も仕方無く、昨日教わった中で比較的歌いやすい真っ当なのを入れる。


 俺が入れた曲が3曲め。

 という事は奈津季さんが入れたのだろう。

 ルイス君も1曲入れる。


「成程、ボカロ系か。ならこっちは大人な歌で勝負だ」


 セックス・ピストルズに似ているけれど違うグループの名前が出る。

 何だこれは。

 いきなり給食とか鬼とか叫んでいるぞ。


「ONIGUNSOW!ですか。やりますね」


 給食とか昼休みとかどう聞いても大人な歌ではない自称大人の歌の後、仕方なく俺の番。

 あ、間違えて早口な方を入れていた。

 おかげで序盤がちょっと失敗したが、まあ何とか歌い終わる。


 次はルイスが英語の歌を歌う。

 これはビートルズだっけ?

 明るくてテンポよくてまっとうな歌で大変よろしい。

 微妙に『大変な日の夜』という歌の選択に恨みが出ているような気がするけれど。


「ならこっちはこれですよ」

 例の無茶苦茶早口で最高速な別れの歌だ。


「もう俺達は出来るだけ歌わないで見てようぜ」

 ルイス君にこっそり耳打ち。

 そして奈津希さんはみかん!を連呼し始めた。


 猛獣対怪獣の戦いは続く。

 俺とルイスに救いは来ない……

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