第270話 名古屋遭難事件
もう少し駅付近で観光していくという主流派を残し、俺は香緒里ちゃんと風遊美さんの3人と宿へと戻る。
ほぼちょうど3時。
チェックインをして部屋に入る。
今日の部屋は28畳の大広間だ。
14畳と14畳の2つの部屋に分ける事も出来る。
きっとこの面子だと分けないだろうけれども。
3人で着替えてのんびりしていたら、北米組が帰ってきた。
何故か3人共微妙に顔色が悪く、調子も悪そうだ。
「食事の時間になったらおこしてくらはい……」
ジェニーが、そしてロビーも倒れ込む。
「どうしたんだ」
仕方ないので唯一話ができそうなソフィーに聞く。
「遭難しました」
街中で遭難だと?
「道に迷ったのとは違うよな」
「山に登って遭難です」
名古屋に山ってあったっけ。
「甘口抹茶小倉スパは駄目です。あれは登頂できません。無理するとああなります」
ああ、とは倒れている2人の事だろう。
「では私も寝ます。後は宜しくお願い致します」
倒れた。
山で遭難で甘口抹茶小倉スパ?
「何が起きたんでしょうか」
「名古屋に遭難するような山って無いですよね」
「無い……と思う。それに甘口何とかだろ」
「甘口抹茶小倉スパです。スパって温泉の事でしょうか」
「微妙に気持ちよく無さそうな温泉ですね。修兄は聞いた事が有りますか」
「無いな。ちょっと検索してみるか」
スマホを出して検索してみる。
そして出てきた結果に俺は慄然とした。
「どうもこの世の地獄を見てきたらしい」
そう告げて俺はスマホの表示をそのまま2人に見せる。
「ちょっと、これ……酷いです」
「これは詩織でも無理ですね」
名古屋の西、南山大の近くにその山はあるという。
その名は喫茶マウン●ン。
奇食を求める人の聖地だ。
特にそこの甘口の大盛りのスパゲティは来る人を拒み、完食という栄光を目指す者を撥ね付ける。
完食した者は登頂者としての栄光を得て、敗退した者は遭難者として蔑まれる。
そんな、厳しい厳しい場所だそうだ。
「無理しやがって……」
そう言った俺の言葉に反応したのか、ジェニーとロビーが倒れたままポケットから何かを取り出す。
それが何かはWebに載っていた。
「それは、登頂者の印のスタンプカード」
それぞれ『5合目 甘口バナナスパ』と『7合目 甘口メロンスパ』のところにスタンプが押されている。
「ロビーと私は登頂したれすよ。でも今回はもうギブれす。今回はこのへんで勘弁してやるのれす」
「日本を甘く見ていたデス。日本にもツー甘くてツー多い文化いたデス」
折角旅行に来たのだし、もう少しまともな物食べろよと俺は思うのだが。
がやがやと聞き覚えのある声が近づいてくる。
名駅で別れた連中も帰ってきたようだ。
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