第261話 風呂に耳あり(3)
「確かに風遊美先輩、さっきも機嫌よく岩風呂に浸かっていましたね」
成程、今の風遊美さんの位置は岩風呂か。
なら出くわさないように用心しよう。
「でもそれだと香緒里先輩、自分の魔法で稼いだ費用を修先輩に勝手に使われている事になりますよね。それで香緒里先輩は大丈夫なんですか」
あ、そう言われてみればそれもそうだな、と俺は思う。
理奈ちゃんなかなか鋭いな。
「そこは面白い関係でさ。修と香緒里は性格も何もかも違うんだが、基本的に考えている事はまるで同じなんだ。片方が何かしている時には必ずもう片方がバックアップしているというか。
最初は香緒里が修のフォローをしているのかと思ったけれど、どうも逆パターンもよくあるみたいでさ。相談しなくても常に基本的な意見は一致しているし、2人ともそれを当たり前と思っているらしいんだ。
かなり小さい頃からの幼馴染とは聞いているけれど、多分それ以上なんだろうな」
奈津希さんの今の言葉も含めてちょっと考えてみる。
確かに旅行の件について、俺は細かい理由までは香緒里ちゃんに説明していない。
でもそれでも理由は通じているだろうと確かに思っている。
言われてみれば確かにそれって当たり前の事ではないよな。
もし香緒里ちゃんの立場にいるのが別の人なら。
例えば由香里姉だったらと考えてみる。
うん、間違いなくその辺の意図も説明するな、きっと。
他にも、例えば奈津希さんなら。
説明する前にきっと逆に俺に意図を確認してくるだろう。
でも香緒里ちゃんだと確かに無意識に大丈夫だろうと思ってしまう。
これは俺の過信なんだろうか、甘えなんだろうか、それとも。
「そういう意味では焼けるよな。僕なんかこの年でも独り身だしさ」
「でも誰かいるって、ジェニー先輩が言っていましたよ」
何だと?
俺も香緒里ちゃんも風遊美さんも、多分ばらしていないぞ。
「何でそういう話になるんだい。理由が聞きたいな」
「前にソフィーさんが心理実験のデータを集めた時、色々解析したんですって。
奈津希先輩は修先輩にかなり好意を抱いているように見えますが、どうもそれは修先輩に似た別の第3の人間ではないかって。いくつかのパラメーターが相手が自分より先に行っている人間、おそらく先輩とか先生とかそういう関係なのを示唆しているって」
前にルイスが酷い目にあったあの心理検査か。
しかしなかなか恐ろしいデータが出るものだな。
「お、奈津季先輩が黙ったぞ、図星か」
「参考までに、他の人のデータはどうだったか聞きたいな」
奈津季さんが珍しく動揺を隠せない感じになっている。
「風遊美先輩は修先輩に関心が向いているけれど恋心まで行くかは不明だそうです。ジェニー先輩は修先輩にふられて二次元に婿を探しに行くと自分で言っていました。ルイスさんは奈津希さんにふられて詩織さんの方を向いているそうです。修先輩、香緒里先輩、詩織さんの3人はデータが特異すぎて解析不能との事です」
成程、他人事ならなかなか面白いデータだ。
「補助魔法科もなかなかやるな。で、理奈ちゃんと愛希ちゃんはどうなんだい」
「攻撃魔法科の1年には面白そうなのいませんしね。ルイスさんは色々な意味で上物なんですが、詩織さんに勝てる気がしないですから」
「というか魔法無し10センチの掌底で演習場ダミー人形を100パー即死させるんだぜ。プラスどこでも出現自由距離関係なしの空間魔法使いなんて、攻撃魔法科じゃなくとも勝ち目ないだろあんなの。あれが魔法工学科なんて絶対何かの間違いだ」
「呼びましたですか」
「ぎゃっ!」
悲鳴と派手な水音。
どうも詩織ちゃんが予告なく出現したらしい。
これは密かにやばいかな。
俺はこの騒ぎに乗じて、こっそりと風呂場を逃げ出すことにした。
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