第21章 私が楽しい理由~夏の旅行・前編~

第256話 やっと出来たぞ試作品

 半年以上かけて、俺はやっと魔法道具系の論文一通りを確認し終わった。


 改めて感じる。

 この分野の系統だてた研究がほとんどなされていない事を。

 魔法に関する研究は色々な分野がある。

 でも魔法工学的に進んでいるのは既存の工学等に対する応用がほとんどだ。

 魔法そのものに使用する道具についてはほとんど研究が進んでいない。


 絶対的に魔法研究者が足りないせいもある。

 でも魔法補助用具として有効な杖でさえ、未だにただの木製に魔石を埋め込んだ程度のものが主流の状態だ。

 魔力強化理論はいくつも出ているのに、それを応用した道具類はほとんど無い。

 そのおかげで俺が杖や護符等で稼いだり出来るのだけれど。


 だが論文作業のおかげ。

 押さえるべき理論や方法論はほぼ掴めた気がする。

 あとは実作を重ねるだけだ。


 幸い夏休みまで期末試験以外の行事はない。

 そして俺は試験勉強はしない主義。

 期末試験など単なる行事として以上の意味は無い。

 学生会も表立った行事は何もない。


 なので放課後はほぼ工房にこもる日々が続く。

 工房にこもると言っても、随分と人数が増えたのでまわりは賑やかだ。

 香緒里ちゃんは趣味の日本刀を製作中で、詩織ちゃんは課題の義足を製作中。

 ロビーは相変わらずバイクを改造しまくっている。

 そのうちあのバイク、変形して空飛ぶんじゃないか?


 ◇◇◇

 

 さて、そんな感じで数日後。

 俺の最強小型魔法補助具試作品1号が完成した。

 俺の小遣いと知識と魔法とテクニックを駆使した力作だ。

 それに試作品ならではのある機構もこっそり入れている。


 テストは奈津希さんにお願いした。

 俺では魔力が弱すぎて参考にならない、というのが表向きの理由。

 本人には真の目的や意図は秘密だ。


「しかし僕がテストしていいのかい」


 攻撃魔法科の演習場で奈津希さんはそう言いながら俺から試作品を受け取る。

 ちなみに試作品はキーホルダー型。

 本体は招き猫の形にしてある。

 余分な機構を入れたら大きくなってしまったのだ。


「ってこれ、去年の秋のアミュレットよりタチ悪いな。何だこの怪しい増幅感は」

 流石奈津季さん、触っただけで威力に気づいた。


「卒業研究用で販売目的はありません。なので率直な使い勝手をお願いします」

「ならいいが。こんなの市販したら危なくていけない」


 奈津希さんは片手でキーホルダーを握り、50メートル先の装甲板を見る。

 一瞬後、轟音とともに装甲板が粉砕した。


「威力は秋に貰った刀より上だな。ただ小さい分指向性を掴みにくい。あと増幅率が高すぎて微妙な力のさじ加減がしにくいかな。

 形は前に風遊美に渡した柿の種型アミュレットの方が使い易い。あの形なら自然に指向性も掴めるし。威力には問題は無いから後は出力特性だな。もう少しリニアな出力特性で、あと出力の出だしは低めな方がいい」


 攻撃魔法科筆頭は的確に評価をしてくれる。

 そして俺は審査魔法でキーホルダーのある機能を確かめる。

 どうやら順調に動作したようだ、よしよし。


「しかしとんでもない技術だな。これだけの増幅率の魔道具、初めて使った」

「俺のこの学校での集大成にするつもりですから」


 それも事実だ。

 論文をくまなく読んだことで、この分野に対する愛着みたいな感情もわいている。

 それにバネ事案以前は、俺の生活費は主に魔道具作成で稼いでいたし。

 そう考えると俺がこの分野に進むのは必然だったのかもしれない。

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