第254話 物件と夢と未来予想図
「何か修、そういう厳しい処、風遊美に似てきたな」
「どうしても言いたくないなら別ですけれど」
「そんな大したものじゃないさ。感傷とかそういったつまらない事だ」
俺達は奈津季さんの次の言葉を待つ。
「ここは前は洋品店が入っていたんだ。個人商店じゃなくて本土系のさ。5年前に潰れたから皆知らないと思うけどな。今はネットで買った方が好みの服が安く買えるから、商売にならなくなって撤退したんだ。
で、その時ふと思ったんだ。この島でも成立する商売って何だろうなって。
結論は通販等で代行できない、実際に来店する必要がある商売。もしくは来店したくなるような商売。それならやりようによっては成り立つだろう。そう思ったんだ」
外は雨。
この先は本日休みの郵便局だけなので人影は他にない。
その中で奈津希さんの話は続く。
「前にも言ったかな、この島を普通の街にしたいって。
魔法使いが出来る事って研究や超常的な活動の他にも、もっと色々あると思うんだ。もっと日常に近い、例えばこんなところのお店だって。
それにこの島は普通の仕事が少ないからさ。例えば中学の時に一緒にいた連中、高校を卒業したらほとんど島を出てしまう。魔法が使えないならこの街に住んでいる意味が無いからさ、現状では。
なんて大きな事を言っているけれど、実は僕がやろうとしている事はそれ程たいした事じゃない。
修は知っているよな、江田先輩」
俺は頷く。
「さっきの普通だの何だのってのは、元はと言えば江田先輩の受け売りさ。奴の家はこの先のハイツ聟島初寝台で、この辺は時々一緒に帰ったりしたんだけれど、その時に奴がぼそっと言っていたんだ。
『ここだと人通りもあるし、この島で店を出すとしたらちょうどいいかな』
ってさ。それでこの場所は気になっていたんだ」
「それだけではないですよね。奈津季が
奈津季さんが軽く頷く。
「そうだな。洋菓子と和菓子両方やるにしても、どっちも毎日買ってくれるってものでは無いだろ。だから一緒に焼き立てパンでも売っていれば何とか生活できるかなって。で、どうせなら本場で修行しようかと」
成程、そういう訳か。
言われてみればそう、話は全部きれいに繋がる。
江田先輩と幼馴染という事も、個人的に連絡を取っていたという事も。
でも奈津季さん、何気に女の子しているんだな、やっぱり。
そう思うと何か微笑ましい。
「じゃあ修君に最初から色々気を配っていたのは」
「奴に頼まれて、ってのも半分あってさ。人付き合い得意じゃないのに頑張っているから面倒見てやってくれって。色々と江田っちに似てて気になったのが残り半分かな。まあ修は優秀だったから、僕が面倒見るまでもなかったけれどさ」
「そんな事は無いです。実際随分助けられました」
まさかこんな感じに繋がっているとは思わなかったけれど。
「じゃあこの場所は残念だけど、それまで取っておきますか」
「その必要はない。他の業者に先取りされる可能性もあるし。それに僕や江田っちがいきなり借りるには、ちょっと賃料が高すぎるしさ。
だからここを紹介するのを迷ったのは単なる僕の感傷。気にする必要は無い」
何か香緒里ちゃんが言いたげだ。
なので俺は目で合図する。
大丈夫、任せたよと。
そして香緒里ちゃんはは口を開く。
「正直ここは必要な広さよりちょっと広すぎるかもしれません。それでも場所や他の条件がいいので、申込みが通れば借りるつもりです。
ですからもし、奈津希さんや奈津希さんの先輩がこの島に帰ってきたら、その時はまたここについて相談しませんか。私にも修兄にもここまでの広さは必要ないし、こっちの商店街側の場所も必要では無いですから」
「いいのか、それで」
「費用上は問題ないですね。何せ商品の粗利益率が高すぎるんで、諸費用を使いまくらないと税金や内部留保が冗談みたいになりますから」
会計担当として言うがこれは事実だ。
「悪いな、何かな……」
「何処がですか。僕らは奈津希さんにいい物件を紹介してもらった、それだけです」
と言いつつも、奈津季さんがここに色々な思い入れや感情を持っている事位は俺にだってわかる。
だから俺達は、奈津季さんがいつもの状態になるのを待ち続ける。
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