第253話 あらこんな所に物件が

 人数が多い分は、隣の田奈家の客間2室を借りた。

 具体的に言うと1年生3人が田奈家の客間宿泊だ。

 なお奥様と長女はGW中は東京へお出かけ中。


 詩織ちゃんは何故行かなかったのか尋ねたら、

「こっちで皆と遊んでいる方が楽しいですよ」

との事。


 そう思ってくれるのなら、俺としても結構嬉しい。

 去年までの分も充分以上に楽しんで欲しいなと思うところだ。


 さて、今日の天気は生憎の雨。

 なので未だ膨満感が消えない胃腸をいたわってゴロゴロする者、雨の中まったりと露天風呂を楽しむ者、趣味と学生会の仕事を兼ねてWebページの更新をしている者等、皆マンション内で時間を潰している。


 そんな中、俺達4人は10時過ぎ、マンションの部屋を出た。

 4人とは俺、風遊美さん、奈津季さん、香緒里ちゃんだ。


「まずは役所の公示の方へ行くよ」


 役所とは言うが、要はいつも行くハツネスーパーと同じ建物の2階だ。

 俺達は通称ハツネスーパーと呼んでいる建物は、厳密には『魔法特区市街化総合施設』という施設。

 スーパーや喫茶店等の店の他に、いわゆる役所関連の機関も一通り入っている。

 この前お世話になった法務局の支所や税務署等もこの建物内だ。


 奈津希さんは役所の端末を操作して、何枚かを印字して取り出す。


「該当の物件だ」


 奈津季さん以外の3人で覗き込む。

 賃料は月25万円。高いが問題のない範囲だ。

 広さは約50坪、充分以上だ。

 場所は特区聟島初寝100市街化総合施設1階。


「ここの1階ですね」


 成程、俺達はレンタルラボや研究団地に目が行っていて、商業区域内は探していなかった。

 紙を見る限り商店でなくても入居可能。

 現に事務所も何件か入っている。


「ああ。これから案内するよ」


 奈津希さんはそう言って歩きだす。

 既にこの紙の内容については全て把握済みらしい。

 何故そんな情報を持っていたのだろう。

 ただその疑問はまだ聞く時ではない。

 もう少しだけ待った方がいいような気がする。


 ◇◇◇


 いつも行っているハツネスーパーの並び、美容室と理髪店の横の空きスペースがその場所だった。

 現在はシャッターが閉まったままの状態になっている。


「ここだよ。裏は搬入車が入れるし学校にもマンションにも近い。ちょっと家賃が高いけどさ。ほぼ条件通りだろ」


「そうですけれど、一つ聞いていいですか」


 条件的には問題ないというか、ほぼ希望通りだ。

 学校から近くマンションからも近い。

 運送会社の車も後ろに付けられる。

 賃料も会社の経理上問題ない額だ。


 でもきっと、このまま契約する訳にはいかない。

 これからする話を聞いてからでないと、きっと後悔する。

 聞くべき時はきっと今しかない。

 だから俺は奈津希さんに尋ねる。


「聞くって何をだい」

「何故ここの事を知っていたかです」


「空いていたから気になって、という答えは」

「駄目です」


 奈津希さんはため息をつく。

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