第252話 この豚はいつか見た豚
いつか見た光景が時を超えて再現されている。
マンション屋上の露天風呂で。
「弱いから負けた。それだけだ」
「これが限界という事なのね」
「Int trap halt!」
「もう一回幽門が開けば大丈夫……多分」
「More people are killed by overeating and drinking than by the sword.」
色々言っているようだが、要は食べすぎただけだ。
今回暴食の罠にかかったのはジェニー、ソフィー、ロビー、愛希ちゃん、理奈ちゃんの5人。
他は以前の経験なり、自制なりで何とかトド化を回避した。
詩織ちゃんは確かトド連中と互角以上に食べていた筈だけれど元気だ。
あれは俺にもよくわからない。
あとジェニー、確か前もトド化した筈だがその経験が活きていない。
誠に残念である。
トド化連中はロビーを除き寝湯でおくたばりになっていて、ロビーはぬる湯に足だけつけて上半身をデッキに倒している。
なお危険な部分には一応タオルをかけてある。
「確かに今日も美味しかったですけどね」
そう、確かに今日の夕食は美味しかったのだ。
鯛とアジとカンパチの3種盛り。
ノーマルな刺身と漬けと炙りとカルパチョ。
「去年の春休みですよね。確か同じような事が起きたのは」
風遊美さんがぬる湯にいるのもいつも通り。
横のメイン浴槽で奈津季さんが伸びているのもいつも通りだ。
「何なら毎年の恒例行事にするかい。ルイスにも魚の捌き方は伝授したし、あと3年は行事に出来るぞ」
「去年のGWは雨でしたけれど。こういうのも悪くないですね」
確かに、食べ過ぎるのも後になればいい思い出になるかもしれない。
「ところで修、今日帰りが微妙に遅かったな。何かあったのかい」
あ、学校帰りに寄り道したのがばれている。
「いやさ、ジェニーが例の魔法で修と香緒里の帰りを確認したんだが、着くまでに妙に時間がかかったからさ。何かあったのかと思って」
成程な。
「実は今、工房の場所探しをしているんです」
という事で俺は風遊美さんと奈津希さんに工房探しの件を話す。
「成程、研究団地は学校から遠いですし、魔技大ラボは搬出搬入が大変ですね」
「そうなんですよ。だから出来れば運送会社のトラックが横付け出来て、学校とこのマンションに近い場所なんてあれば最高なんですけれど。
そうは上手く行かないですよね」
「そうですよね……ん」
風遊美さんが何かに気づいたようだ。
「奈津希、何か言いたい事があるんじゃないですか」
「いや、ちょっとね」
微妙に奈津希さんの言葉が歯切れが悪い。
「それにしても相変わらず風遊美は鋭いな。隠し事出来たもんじゃない」
「誰かさん程では無いですわ。それで今聞いても大丈夫ですか」
「もう少し考えさせてくれ、明日の朝まで」
俺には今ひとつ風遊美さんと奈津希さんの会話が理解できない。
「一応聞いておくけれど、修も香緒里も明日は何も用事無いよな」
「ええ。先月の決算表を確認するくらいですね」
香緒里ちゃんも何も用事は無い筈だ。
「ありがとう、今はそこまで。悪いな何か」
「いえいえ、俺は何も聞いていないですから」
何かはよくわからないが、とりあえずは聞かないでおこう。
明日の朝にはわかるらしいし。
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