第231話 それでも楽しい露天風呂

「それでは温泉に行くれす!」

 ジェニーが力強く宣言する。


「俺とルイスは後で行くよ。ここのメインは混浴だし」

 ルイス君が横でコクコクと頷く。

 さっきの女子高専生集団着替えの恐怖から逃れきれていないようだ。


「何を今更」

「そうなのです」

 奈津季さんと詩織ちゃんからの反論、そして。


「混浴だからこそ一緒にお願いします。他の男性が入っていたらちょっと怖いじゃないですか」

 香緒里ちゃんにそう言われると、ちょっと断りきれない。

 という訳で女性陣に連行される形で温泉へ。


 脱衣所は男女別れていたので一安心。

 内湯で身体を洗って露天風呂の方へ。


 一番広い露天風呂は他にはまだ誰もいない。

 谷あいの川を堰き止めたという造りの、いい感じの露天風呂だ。


 この上流にも滝壺というか池くらいの大きさのいい感じの露天風呂があるが、そこも無人のようだ。

 ただそっちは多人数だと厳しそうなので、手前広い方の露天風呂に陣取った。

 3月、外はまだ冬で空気も冷たいが、その分温かいお湯が気持ちいい。

 南国の特区ではこの感じは味わえないな。

 まもなくタオルを羽織った一行がぞろぞろと賑やかにやって来た。


「お、修とルイスだけか」

「貸し切り状態ですね」

「ならば遠慮はいらないのです」


 飛び込む餓鬼1名。

 思い切りお湯が跳ねて顔に浴びる。


「残念ながら泳ぐには少し浅いですよ」

「明日の宿は温泉プールがあるからそこまで我慢しなさい」

「お母ちゃーん、親父に怒られたです」


 詩織ちゃんが香緒里ちゃんにそう言って甘える素振りを見せる。


「だれが親父だ、そんなに年離れてないだろ」

「言うことが最近親父臭いのです。親父虫そっくりなのです」


 何か酷い事を言われている。

 誰のせいだよと言おうとしたが、まあいいか。

 取り敢えずこの温泉は気持ちいい。


「上の露天風呂もチャレンジしたいです」

「あ、私も」

「私も行くです」


 1年女子2人とジェニーが上流へと向かっていった。

 ここの露天風呂は混浴用に女性用巻タオルがある。

 いちいち目をそらさなくてもいいので大変に助かる。


「凄くいい感じの宿ですけれど、ここは修君が知っている宿なのですか」

 と風遊美さんに聞かれたのでネタばらし。


「実は香緒里ちゃんの親父に聞いたんですよ。一番詳しそうなんで」

「修兄はうちの両親と仲がいいですから。私や由香里姉はそうでもないですけれど」


 その原因も俺は知っているけれど、あえてその件は今日は触れない。


「本当は他にもいい温泉があるけれど、山奥過ぎて4月中旬にならないと客を受け入れないそうなんです。ただ施設や食事等も含めるとここが一番お勧めだって言っていました」

「それなら食事も楽しみですね」


「何なら夏休みにでももうひとつの方の宿、皆で行ってみますか。全体として古いし山奥で行きにくいけれど、温泉だけは何種類もあってここより自然に近い感じがするって」

「いいですね。是非行ってみたいです」


 まだ寒い時期だし平日のせいか、他に客の気配が無い。

 まったりと時間が過ぎていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る