第226プラス話 その1 何を記念した日だろうか?

「バレンタインデーに由来はあるけれど、ホワイトデーは知らないな」

「そもそもキリスト教圏に、ホワイトデーというイベントはない」


 春休み前のある日。

 俺とルイスはマンション8階の宮崎台家のキッチンで作業をしていた。


 なお宮崎台家は両親ともに魔技大の先生だ。

 魔技大は既に春休入り。

 両親ともに国際会議出席という名目の海外旅行中。

 なのでこの部屋は奈津季さんしかいない。


 同じマンションだけあって、部屋の作りもよく似ている。

 あの馬鹿でかい屋上が無くて、トイレが1箇所、ゲストルームが1部屋少ない程度の差だ。

 キッチンのレイアウトは全く同じ。

 なので俺としても使いやすい。


「それじゃあ修は今日は1人で作るんだな」

「ええ」

 小豆も砂糖もそれなりの物を用意したし、ホットケーキミックスもバターも卵も牛乳も用意済みだ。


「とりあえずこっちのコンロを借りて大丈夫ですか」

「ああ、僕たちは使わないからさ」

 という事で、俺は早速鍋に小豆と水を入れ、煮る作業にかかる。


 今回俺が作るのはどら焼き。

 勿論学園祭に創造製作y研が作るようなものではなく簡易版。

 あんこを作り小さめのホットケーキを2枚焼いてあんこを挟み込む。

 方法論さえ知っていればそれ程間違いは起こらない一品だ。


 なお俺は創造製作研の絶品あんこレシピも持っているが、今日は使わない。

 『蓋をあけないまま80度のお湯を鍋全体に差す』とか、特殊魔法持ちでないと参考にならないレシピだから。


 まずは小豆を煮る作業その1、通称渋抜きを開始。

 そして余った時間でホットケーキミックスを混ぜ合わせ、ちまちまとミニホットケーキを焼く。

 何せ20枚近く焼かなければならないので手返し良くやらなくては。

 ホットケーキ焼きながら小豆をザルで湯を切ったり、また煮たりと結構忙しい。


「うわあっ!」

 奈津希さんの悲鳴が聞こえた。

 そのままダッシュで洗面所へと走っていく。


「どうしました」


 ちょうどホットケーキを1毎焼き終わったところなので、状態を覗きにいく。


「僕は単なるフルーチェを作っていただけなんだ。それなのに」

 ルイスの証言。

 よく見ると、いちごのフルーチェに少し違和感のある赤色が混じっている。

 そして近くには、見覚えある骸骨マークの小瓶。


「犯人は判明した」

 俺は骸骨マークの赤色液体入りの忌まわしい瓶を、魔法で完全に封印する。


「これで犯人ももうこれは使えない」


「あーあ、死ぬかと思った」

 奈津季さんが洗面所から帰ってきた。

 甘いの大好きな代わりに辛いものが極端に苦手なのだ。


「犯人は、やっぱり奴だよな」

「この瓶が証拠です」


 この瓶の持ち主を、俺達3人は知っている。

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