第220話 俺が描いた透視図

 次の日、俺は最強の杖プロジェクトを変更した。


 期限は若干の余裕を持たせて本年末か来年頭まで。

 まずは実作せずに既知の魔力集中と増幅の方法論を極める。

 魔力導線も積層魔法陣も含め、理論も技術も全て見直す。

 今までのようなただ既知の理論の小手先の応用では届かない物を作るために。


 目標は神社で正月に売っているお守りサイズ。

 これに現在最強の杖と同じかそれ以上の効果を入れ込む。

 どんな種類の魔法でも関係なく使えるように仕込む。


 無論今の俺には技術的にも理論的にも不可能だ。

 それをあと1年でどこまで覆せるか。


 要は特区外へと旅立つ奈津希さんへ渡したい代物の作成だ。

 魔法と関係なく見えて、いざとなれば魔法の杖と同等以上に頼りになる代物。


 例えば香緒里ちゃんが作って風遊美さんに渡した幸運に導くペンダント。

 あれもお守りとしてかなりいい線を行っていると思う。

 でも奈津季さんの場合は既に予知に近い魔法を持っている。

 だから必要なのは幸運ではない。


 必要なのは力。

 普段は魔法と全く関係なく見えて、いざという時に奈津季さんが自分の力を躊躇なく発揮できる道具だ。


 設計中の杖プロジェクトは保存して仕舞い込む。

 そして開くのは魔技大の論文データベース。

 ここに国内外の魔法に関する論文がほぼ網羅されている。

 一応英語が標準なのだが、抄録は日本語訳もされているので検索に支障はない。


 ざっと検索しただけだと魔力の増幅と集中に関する論文は2万近い。

 更に杖や魔法道具についての論文も3千近くある。

 その癖俺が目指している方向そのものの論文は皆無。

 かなり根気のいる作業になりそうだ。


 でも不思議と俺はその量に圧倒される事は無かったし、絶望感も感じなかった。

 何故か必ず期限までに目的に到達できると感じていた。

 何故かは俺にもわからないけれど。


 まずは時間逆順で、関係ありそうな論文の抄録を片っ端から読んで、使えそうな論文をストックしていく。

 その時点で役立ちそうなものはざっと読むとともに関連する論文をチェック。

 3時間程費やして、やっと1年分ほど論文の山を遡れた。

 別窓で開いたエディタに打った俺の覚書もそこそこの量になった。


 まだまだ始めたばかりだが、既に少しだが手応えを感じる。

 時計を見るともう午前10時過ぎ。


 ここの面子、奈津季さん以外は低血圧気味だ。

 そして奈津希さんも昨晩は大分例の清涼飲料水を飲んでいる。

 それで今朝は皆立ち上がりが遅いのだろう。


 普段はジェニーが起き出してくるのだが、今日は何故か遅いようだ。

 しょうがない、たまには俺が朝飯でも作るか。

 久しぶりだから純和風の朝食メニューなんてのもいいかな。


 そう思いながら俺は部屋を出て、キッチンに向かった。

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