第219話 奈津希さんが描いたフローチャート

 風呂から上がって。

 俺は例によって自室でパソコン相手に例の杖の設計図を描いている。


 何でもかんでも詰め込むつもりだが、思った以上に難しい。

 魔力の干渉問題で増幅が上手く行かないのだ。

 色々な回路を作っては没にする作業を繰り返している時。

 部屋の扉がノックされた。


「はいはい」


 扉を開けると奈津季さんがいた。

 後ろに風遊美さんも見える。


「ちょっとこいつの味見しないか」

 手には俺が買ってきた清涼飲料水を持っている。


「いいですね」

 何か話したい事があるという事だろう。


「今日は客間が空いているからそこで飲もうぜ。実は用意もしてある」

 との事なので俺は奈津季さん、風遊美さんとともに客間へ。

 ここはベッド2つと簡単なテーブルセットがある。

 俺達はそれぞれ適当な椅子に腰掛ける。


「まずはあけましておめでとうという事で、乾杯」

 グラスを合わせる。


「と言っても学生会は予算編成位しか仕事は残っていないんだけどね」


 そう言われてしまうとちょっと寂しい。


「まあ俺以下は学生会持ち越しですけどね。いつでも顔を出してくれれば」

「そういう訳にも行きません。新しい1年生も入ってきますし」

「進学なり卒研なりあるしね。顔を出せる機会はぐっと減るんじゃないかな」


 それは俺もわかってはいる。


「そう言えば何故、進学しないで外へ出るって決めたの」


 自然かつ単刀直入に風遊美さんが尋ねる。


「魔法の研究にせよ攻撃魔法の活用にせよ、大学を出た方がよっぽど有利です。別にお金に困っているとは思えませんし、成績だって奈津季なら推薦取れる筈です」


「改めて考えてみると、僕がここでやるべき事は無いような気がしたからさ。風遊美や修と違って、僕はここ生まれという成り行きだけでここに進学した訳だしね。

 例えば風遊美は経緯はともかく魔法医師を目指しているし、修は魔法工学で院まで行くつもりだろ。そういう目標が僕には無いんだ。ここではね」


「他に目標が出来た、っていうのですか」

「というか、昔思っていた事を思い出したという感じかな」


 奈津希さんは軽くグラスを口に運んで、続ける。


「この特区しまをもう少し普通の街にしたいなと思ってさ。それこそ本土にある普通の街と同じように。

 多分研究とか特殊な仕事ばかりでなく、魔法使いが出来る事って本当はもっと色々あると思うんだ。その色々部分がこの特区しまに欠けている。

 まあこれは僕だけのの意見じゃない。元々はある先輩から受け売りなんだけどさ」


「具体的には何をする気なのですか」


「それは言わぬが花さ、大した事じゃないんだけれど。

 言いたくない理由は僕が見栄っ張りだから。失敗した姿を人に見られたくないからさ。まあ他にも理由はあるけれど、その辺は察してくれるとありがたい」


「普段は結構自信家ぶっている癖にですか」


「風遊美はいつも厳しいな。まあ小器用に何でもこなすように見せているのは認めるよ。内心ではいつでもヒヤヒヤしっぱなしだけどな」


「それでも築いた結果は実力ですよ」


「そう言ってくれると嬉しいけどね」


 少なくとも俺から見た奈津希さんはスーパーマンに近い。

 学力的にもほぼ全教科穴なしの万能型。

 使う魔法も正に万能。

 特殊系を除く全ての属性に対抗出来る数少ない超バランス型の攻撃魔法使い。

 人付き合いもいいし友人も多い。

 確か外国語も何ヵ国語かは使えた筈だし。


「まあ、やりたい事があると言うなら止められません。でも他の特区よりここの方があらゆる面で進んでいると思うのです」


「行く予定なのは特区じゃない場所さ。魔法使いという事も基本的に隠していく予定だ。正直な処特区ここを出るのは始めての箱入り娘なんで、ちょっとブルっているけどな」


 という事は、やはり魔法関係ではない訳か。

 それでも俺は思う。


「奈津季さんなら大丈夫ですよ」

「お、嬉しい事を言ってくれるな」

「後輩として、奈津季さんが失敗するところを想像できませんから」


 夜は少しずつ更けていく。

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