第214話 いつか懐かしい日々(2)
「大丈夫、あなたは風遊美さんでここ日本の魔法特区にいる。それは間違いない」
「ありがとう。あ、ちょっと待っていて下さい」
風遊美さんは立ち上がり、部屋を出て行く。
持ってきたのは氷とグラスとワインボトルだった。
ワインと言ったらまずいのか。
奈津希さん曰く清涼飲料水か。
「どうです。たまにはこんな飲み物もいいでしょう」
俺は時々作業用に使う折りたたみテーブルを出して、風遊美さんの持ってきてくれた一式を置く。
「こういう飲み物を出すと奈津季さんが来そうですけどね」
「奈津季はマタタビを与えたネコ科猛獣のような感じで、アロマの薫りの中ベッドで丸まっています。ジェニーとソフィーはジェニーの部屋であのチーズケーキを食べています。ルイスと詩織は帰りました。あ、香緒里は1人なので呼びますね」
と言っても特に声を出すわけでもない。
それでも少しの間のあと、扉がノックされる。
「どうぞ」
香緒里ちゃんだ。
どうやって呼んだのだろう。
「種明かしをしましょうか。香緒里なら声を出さなくても、ある程度集中して香緒里のいる方向に呼びかければ聞いてくれますよ」
「意識できるのは前と今の学生会のメンバーくらいです。あとは雑音として自動的に弾いてしまうので」
そういう事が出来るのか、俺は知らなかった。
「そうだ、グラスが一つ足りないですね」
「俺はこのマグでいい」
風遊美さんからもらったマグカップの中の紅茶を飲み干し、テーブルの上に置く。
「これに入れたら瓶の半分以上になっちゃいますね」
「少しでいいですよ。がぶ飲みするものでもないでしょう」
「そうですね」
ほぼグラスと同量になるくらいに例の清涼飲料水を入れる。
「それでは、何もないけど乾杯」
軽く3人でグラスとマグをあわせて。
冷たくて甘い中にちょっと大人の味。
「それでも、こんな楽しい会もあと何回かと思うと寂しいですね」
「そんな事もないでしょう。今期の学生会が終わってもまだ学校にはいるんだし。それに風遊美さんは魔法医志望ですよね。なら最低あと大学4年は
「私はそうですけどね。奈津季は卒業したら
「そうなんですか」
初耳だ。
「1年から2年、外に出てくるって言っていました。最近決心したそうです」
「勿体無いですね。奈津希さんなら魔技大、余裕で推薦で行けるのに」
奈津希さんの攻撃魔法科筆頭というのは戦力だけではない。
学科成績においても4年攻撃魔法科筆頭だ。
「でもその言い方だと、また戻ってくるつもりですよね」
「細かいことは聞いていません。でも前々から考えてはいたようです」
そうなんだ。
そう言われると確かにあと何回、という風遊美さんの気持ちもわかる。
風遊美さん自身来年も受験や卒業研究であまり顔を出せなくなるだろう。
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