第206話 日本はとても平和です

 間違いと誤解と偏見と偏った文化に汚染されまくったジェニーと奈津希さんによる日本式クリスマス解説の後。


 ちょうどいい時間になったので、学生会室を片付けて今日の活動は終了。

 全員でマンションへと帰り夕食にする。


 土曜日に釣れたメバチマグロがまだ大量に残っているので、刺身と漬けとフライで食べまくり、そして露天風呂へ。


 最近は俺もぬる湯でなく樽湯にこもる方が多くなった。

 理由は簡単で、ぬる湯3人はどうも落ち着かないからだ。

 風遊美さんもソフィーも俺が男だという事を、少しでいいから考慮して欲しい。


「修先輩、ちょっと聞いていいか」


 珍しくルイス君が隣の樽湯から話しかけてくる。

 いつもは樽湯の中で気配すら殺しているのだが。


「いいよ。何だい」

「あのクリスマスの解説って本当か」


 仮にもキリスト教圏の彼には今ひとつ信じがたい話だったらしい。


「ジェニー独自の考察面は取り敢えず無視してくれ」

「そうだよな、やっぱり」


「ただ伝承とか出来事とか行動については、ほぼ事実だ」


 一瞬の沈黙。


「とすると最高神が引き籠ったのをストリップダンスで誘き出した神話も、露天風呂の混浴がデフォルトという事も、クリスマスイブがメイクラブの日だという事も、ケンタッキーのチキンで祝うのも、クリスマス撲滅のデモが毎年開かれるというのも」

「ほぼ事実だ」


「クレイジーだ。何と色欲まみれの文化なんだ」


「まあ温帯にあって食用作物が豊富だし、島国だからめったに外国からの脅威もなかったしな。

 基本平和で食物が足りているとどうしてもそっち方面が発達するようだ。ラットでの実験でも証明されている」


 Oh!……という感じの本場仕込みの嘆きが聞こえる。


「僕は日本のHENTAI文化を甘く見ていた」

「ジェニーの解説は別としても、少なくとも千年以上の歴史がある事は文学でも証明されているからな」


 なにせ源氏物語というやりたい放題の作品が文学史に燦然と輝いている。


「甘いな、変態文化は日本だけじゃないぜ」


 あ、危険で余分な勢力が割り込みをかけてきた。


「何なら何処の国のがいい。ローマ皇帝の男色の話とか十字軍のホモな話とか。近親相姦物なんてそれこそ世界中にあるぜ。ロリコン物はやっぱり日本に一日の長があるけどな。あと触手物についても日本の江戸時代に既に漫画化されている」

「何と異常な。もっと敬虔な……って、日本の神ってそう言えば」


 例のストリップダンスの件を思い出したらしい。


「そう言う事さ。理由は簡単。修が言っていたとおりこの国が平和で自由だったからだ。宗教的な圧力もあまり無く、外敵もめったに攻めてこない。

 ただHENTAI全盛だけど性犯罪は世界でもかなり少ない方だぞ。外でもアオカンできる気候条件を考えればこれはかなり誇ってもいい。

 外で突発的に致せる気温のところは寒いところより性犯罪多くなるものだしな」


 奈津希さんは一瞬成程そうかと思わせるとんでも理論を整然と説く。


「全て日本ここが平和だという事の証さ。お陰で平和ボケが多いし交渉事が得意じゃなかったりするけどな。それはルイスも感じているだろ。ある意味日本国内しか知らない僕や修よりも」


「お話中失礼しますですよ」


 突如詩織ちゃんが現れた。

 ルイス君の樽湯に手を付けて温度を確認している。

 ルイス君は硬直している。


「何をやっているんだ」


 ルイス君の代わりに聞いてやる。


「前に修先輩のお湯はぬるすぎて、香緒里先輩の湯だとのぼせる事を学習したのです。私にはぬる湯よりほんの少しぬるい程度が適温だと推理したのです。そしてこの樽湯はちょうどいい温度と思われるのです」


 詩織ちゃんはルイスや俺の視線を全く気にせず、よいしょっと縁を跨いでルイスとおなじ樽湯へ。


「うむ、ちょっとぬるめだけどきっと適温なのです。ルイスに感謝なのです」


 そのルイス君は……硬直したまま。表情も固まっている。

 まあ、その、なんだ。

 頑張れ青少年。

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