第203話 雨上がりの空とパンパーティ

 木曜日から土曜日は残念ながら雨だったが、今日は何とか晴れた。

 そして今は日曜日の午後5時過ぎ。


 江田先輩は今日の午後3時の飛行機で本土へ戻ったらしい。

 残念ながら豆大福のお礼を言うことが出来なかった。

 また会えるとは思うけれど。


 今年の学園祭も特に大きな事故もなく無事に終わりそうだ。

 強いて言えば教授陣対抗パワードスーツ格闘大会でどこかの先生の肋骨にひびが入ったらしいが、まあそれもいつもの範疇だ。


 例の刀工からの罵詈雑言のメールは何件か来ているが、もう面倒なので処理せず念のため保存用のフォルダに投げておいた。

 もう終わった事だし彼の刀工としての地位も終わったことだ。

 放っておこう。


「これが終われば学生会の仕事も終わりが近いな、って思います」

「まだ3月終わりまで5ヶ月近くありますよ」

「でも次の役員が来るのは来月だしな」


 そうか、と思うと物悲しい気分にもなる。

 まあ4月になって完全に新体制になっても、卒業まではあと1年あるしいつでも会えるのだけれども。


「今年は来島者も過去最高を記録したらしいぞ。去年の5割増だと。

 あと例の日本刀勝負、テレビでも放送されていたぞ。修もいつになく格好良く映っていたな。何なら録画してあるけれど見るかい」

「嫌ですよ、面倒くさい。テレビって向こうのテンポにあわせた上で受け手に徹して見なければならないから嫌いなんです。ネットの方がよっぽどいい」


 そう言いつつも、今はあの時の事を思い出してもそれほど嫌な気分にはならない。

 由香里姉を始め皆のおかげだろう。


 あの後色々考えて、あの『馬鹿は嫌いだ病』の原因も思い出した。

 由香里姉が言っていた、あの香緒里ちゃんの件がきっかけだ。


 近所の馬鹿餓鬼が、由香里姉は手を出せないから代わりに香緒里ちゃんをいじめようとしたんだった。

 私立の小学校に通ってお高くとまっているように見えた香緒里ちゃんが、憂さ晴らし用の格好の獲物に見えたらしい。

 それでたまたま現場に間に合った俺が切れて色々やらかしたのだ。


 しかもその顛末を学校と向こうの親が全て俺が悪いという形で誤魔化そうとしたので、俺は怒って自分から警察に逃げ込み警察で一部始終話して捜査を要求した。

 幸い警察がきちんと調べ、香緒里ちゃんにも話を聞いて。

 結果相手側に非がある事、向こうが俺より学年が上で身長体力ともに上である事、相手2人に俺1人だった事を併せ判断してくれた結果。

 無事俺はお咎めなしで済んだのだが。


 その時の無能で事なかれ主義で何もわかろうとしない大人への怒りが、多分俺の『馬鹿は嫌いだ病』の原因だ。

 結果俺が小学校内で教師からも他の児童からも浮いた存在になったのは、今では単なる思い出だけれども。


 今思うと、当時の俺が随分えげつない攻撃をしたのは確かだ。

 わざと追いかけさせて石段を登って7段上から飛び蹴りして、運良く2人まとめて倒れたところを肋骨狙って体重かけて飛び乗って、動けなくなった時点で用水路に転がして落としたんだっけ。

 俺もボロボロになったけれど。


 まあ今となっては済んだ事だ。

 例の刀工と同様に。


 不意に何の前触れもなく詩織ちゃんが出現する。


「今ですね、大学の魔女のサンドイッチ屋で最終日最後の売り切りセールをやっていまして。大量購入してきたのですが、皆さんいかがなのですが」


 そう言って中央のテーブル上にでっかい紙袋から戦利品を並べ始める。


「いいですね。でもあの魔女サンド、いつもは売り切れで買えませんよね」

「雨が多い上に来島者数が増えたから大目に色々発注し過ぎて大変らしいのです。でももう売り切れているですけれどね。買い占めたですから」


 いつの間にか学生会室から消えたと思ったら、そんな所まで行っていたのか。


「ちょこっと噂を廊下で聞きましてね。ダッシュで空間飛び越えて往復してきたですよ。何とか間に合ってあるもの残さずかっさらって来たですよ。褒めて下さいです」


「よしよし、愛いやつじゃ」

 奈津季さんが詩織ちゃんの頭をなでなでする。


 今年の学園祭を、俺達はパンを頬張りながら見送った。

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