第201話 副作用若しくは俺はいかにして落ち込んだか
例の刀工氏は姿を消している。
流石に見苦しいと、来賓として招いた日本刀関連の協会のお偉方から一喝どころでない説教があったのだ。
という訳で、そろそろ色んな意味で頃合いだ。
最後にという形で俺にマイクが回ってきた。
さあ、片付けよう。
「さて、本日色々試して頂いたのですが、これは決して従来の日本刀とこの魔法特区で作った日本刀の優劣という問題ではありません。
何処で作っても質の良い物はあるし、そうでない物もある。それ以上でもそれ以下でもありません。
加えて伝統的な日本刀の製法は、ここで使っているような魔法技術も科学技術も使用せず、それでいてここの刀と同等以上の強度なり実用性なりを持っている。それは周知の通りであります。
ここの刀も日本刀の伝統的な製法なりその結果として残っている名刀なりを持てる技術を総動員して分析し解析して作り上げたものです。まずは伝統的な日本刀あっての物だという事をどうぞ理解していただきたい。
そして最後に。お恥ずかしい話ですが、確かに工房の責任者は私で製法を開発したのも私。ですが本日お目にかけた刀は私の作品ではありません。
工房には2人の後輩がおりましてどちらも私より腕がいい。なので刀に関しては後輩に任せきりになっております。下手な先輩より上手な後輩が作った方がよっぽどいいものに仕上がりますし使っていて安心できますから。
という訳で伝統的な日本刀の技術に対する最大限のリスペクトと先輩としての恥ずかしい事実をもって、私の話は終わりにしたいと思います」
我ながら良く口が回るなと思う。
でもまだスイッチが入った状態なのでしょうがない。
会場に軽く一礼して、俺は自分の椅子に戻る。
最後に来賓の誰かからありがたい言葉を頂いて、拍手とともにイベントは終了。
そしてスイッチが切れて自己嫌悪に陥る俺。
最後の力を振り絞って簡易潜航艇に駆け乗り、一気に上昇して現場を離脱する。
今日の予定はもう大したものは無い筈。
なのでいつもの工房には向かわない。
校舎の裏側の実習教室棟横に俺は潜航艇を停める。
このあたりは学園祭では使っていないので人通りはほぼ無い。
SNSで学生会役付き4人に、
『疲れたので引きこもります。真に必要な場合は出てきますので放置推奨』
と連絡して、俺は実習教室棟へ。
一番手前の部屋を久しぶりに使う合鍵で開ける。
第1工作室、1年以上ご無沙汰していた昔の俺の本拠地だ。
いろいろな意味で懐かしい。
扉の鍵を閉め、俺は昔の定位置だった作業台前の席へ。
座ると同時に押し寄せてくる自己嫌悪。
怒りに任せた勢いと調子よさと詭弁に対する猛烈な嫌悪感。
ああもう駄目だ、死にたい。
このまま消えたい。
これから会う人の目が怖い。
出さないようにした隠してきた実際この学校へ来てから出なかった俺の嫌な性格。
久しぶりに大勢の前テレビ収録付でやらかしてしまった。
どうしようもうやだかんべんしてきえたいきえさりたいしにたい……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます