第200話 当然にして予見できた結果と始末
端の2本が倒れた。
ただ居合家は笑みを浮かべている。
カメラが近寄って結果を確認。
7本全てが見事に切れていた。
居合家は刀を収めてマイクを持つ。
「これ以上の試し切りは必要ない。何と呼ばれようとこの刀は本物だ」
俺は彼に軽く頭を下げる。
彼の技に最大限の敬意を込めて。
そして今度は自称刀工氏の刀の試し切りに入る。
まずは竹なし1畳巻からだ。
先程と同じようにあっさりと畳表は2つになる。
だが、居合家の顔は浮かない。
彼はマイクを取る。
「失礼、この刀だがこれ以上の試し切りは私はしたくない」
例の刀工が喚くのが一段落するまで居合家は辛抱強く待つ。
「何故消極的になるかと言うと、この刀は切った瞬間の響きに濁りがあるように感じるからだ。
何度も使うかあまり固いものを切ると、刃体が折れる危険性がある。
それでも宜しければ竹入り1畳巻きで先程と同じように試させて頂く。それでよろしいか」
再び刀工が喚くのを了承と取ったのだろう。
「それでは試し切りをさせていただく。ただカメラは先程の刀を使った時と同じ配置で、そして人は出来るだけ離れていて欲しい」
その意味がわかったのだろう。見物人がわっと距離を取る。
喚き散らしている刀工を無視し、居合家が構える。
大きな構えからの強烈な斬撃。
金属質の響きを残して倒れる畳表。
折れた刀と地面で回転した刃先。
「私の腕とこの刀では、残念ながらここまでだ」
それだけ言って他は一切弁解せす、彼は自分の席に戻る。
そして喚いている刀工氏を無視したままビデオ解析が始まった。
「まずは両方の刀の畳表1畳巻きの時のモーションを半透明に重ねてみましたが、見事ですね。全く揺らぎ無く同一の速さで同一の動きをしています」
「ならば問題は7本切りの方ですね」
こちらも半透明に重ねて動きを検証する。
「こちらの刃が1本めの中央を過ぎた時点ですね、ここで既に畳表の動きと刃先の動きの違いが出ています。手元から畳表手前の刀は同一位置ですから、ここで刀本体に異常が生じたと考えられます」
「それでは別方向のカメラでも検証してみましょう」
どうせどう検証しても同じだ。
俺には刀が折れた原因がわかっている。
当然解説をしている住吉教授もわかっているだろう。
紙とか藁とかわかりやすいものの斬れ味を良くするためだろう。
刃先に使う硬くて折れやすい鋼を多く使いすぎている。
確かに研いだ時の見た目も良く簡単な物は良く切れるようになる。
しかしその分折れやすい。
しかも素延べと火造りの時の温度調整に失敗している。
それぞれの鋼の接合面の一部に泡状になった部分が内部に出来てしまっている。
叩いて磨いて表面上は誤魔化してあるけれど。
実はこのあたり、工学部住吉教授が事前に解説しかけていたのだ。
当の刀工氏は喚いていて聞いていなかったようだが。
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