第198話 俺は馬鹿は嫌いだ(2)
会場の何処へ行けばいいかはすぐにわかった。
顔見知りの実行委員が空中の俺に向けて手招きしている。
事故らない程度に急降下して着地。
カードキーを外しハッチを上に開いて降りる。
「あの刀匠の爺さんが工房の責任者を出せと煩いんです。香緒里さんが代わりに出ようかと言って風遊美さんに止められている状態です」
「ありがとう」
俺は実行委員の池尻君に礼を言って中央の方へ向かう。
「それでは、この学園でこの刀を作っている工房の責任者が到着したようです。一言お願いします」
いきなりマイクを渡される展開だ。
そして俺は滅多に入らないスイッチが入った状態になっている。
「はじめまして。この刀を作った工房の学生側責任者で魔法による製造法を開発した長津田と申します。
この学校の特性上、実用品としての刀の製造を心がけています。
学校内の皆様はご存知と思いますが、私は学生会役員を兼ねておりますので、学園祭中はそれなりに多忙です。なのでここに来る予定は全くありませんでした。
そもそも物作りをしている者としての成果は、上辺の言葉ではなく作り出したモノで語るべきだと思っています。なのにわざわざ呼び出して頂いたという事は、さぞや私の驚くようなモノが、モノとしての存在で語ってくれるという事でしょう。
それを本日は楽しみにしたいと思っております」
いかんいかん、丁寧だけど棘まみれな言葉が自動で出てしまう。
俺は軽く礼をして、進行担当にマイクを返す。
貴賓席の近く、先生方の横にわざとらしく空いているパイプ椅子がある。
そこに座れと言う事だろう。
俺はそこに着席して周りを観察する。
どうやら中央に解説や試し切り等をする来賓を置き、向こう側に例の自称刀工派、こちら側に当高専側が位置しているようだ。
そしてカメラ等の取材陣の場所と観客席。
観客席の方に風遊美さんと香緒里ちゃん、詩織ちゃんの姿も見える。
どうやら耄碌爺らの被害にはあわなかったようで何よりだ。
これを企んだ元凶の1人に違いない筑紫野先生がにやにやしてこっちを見ている。
いいだろう。
今はあんたの思惑と挑発にのってやる。
すぐに試し切りに入るかと思ったが違った。
先に日本刀の歴史と工学的な解説が入るらしい。
本土の有名大学の歴史学の教授が、まずは日本刀の歴史を時代毎の特徴や有名人等の逸話を交えながら解説していく。
流石
ついつい俺も真面目に聞いてしまう。
続いて工学部教授の方の番になる。今度は工学的立場からの日本刀の解説らしい。
一般的な日本刀の構造から時代毎の変化、そして魔法機器で本日比較する日本の刀の内部構造を解析した結果まで解説している。
俺が見る限り詩織ちゃんの作った方の出来はかなりいい。
3種の鋼を特性毎に上手く使い分け、かつ全てが完全に一体化している。
対する自称刀工さんの方の出来はお世辞にもいいとは言えない。
例えば部材がきちんと接合していない部分が見られるとか。
細かな泡状のスラッグすら確認できる場所がある程だ。
それがわかったのか単に気に触るだけなのか、自称刀工氏が文句を言い始めた。
だんだん声量が上がってきて、ついにはマイクで勝手に喋り始めた。
教授も解説を止め、困ったような顔をしている。
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