第194話 無礼な奴はいるもんだ

 今年は今のところ装備やテント類もあまり壊れていない。

 なので予算上は割と問題が無かった。


 だが怪しげな日本刀の話がどこから漏れたのか。

 その筋からの問い合わせが妙に多い。

 刀鍛冶や居合道関係者から刀剣愛好家まで。


 無論学校側に問い合わせをした場合は、教授会なり事務官なりが対応する。

 でも生徒宛に来た場合は基本学生会対応だ。

 そしてこの関係の問い合わせがあまりにも多すぎた。


 結局はそのほとんどに、

『刀鍛冶が作った伝統的日本刀とは、作りと形は似ていますが製法的には別のものです。付けられた呼称については、模造刀等に付いている名称と同様のものと解してください。何をもって刀の優劣をつけるかはおまかせしますが、実物は学園祭で展示及び実演しますので、詳細は自分の目でお確かめ下さい』

というのを丁寧かつ敬語表現にした定型文をつくり、学生会会長と制作工房責任者、つまり風遊美さんと俺の連名で返送する事にした。


 無論学生会内での了解も取ったし教授会にも決裁を取った上での措置である。

 実は色々無礼な奴が多くて俺は腹をたてているのだが、まあそれはそれ、これはこれである。


 手紙もメールも基本的に同様の措置とした。

 正直俺はそんな面倒な輩などにそれ以上関わり合いにはなりたくなかったのだが。


 忙しない感じのノック音。

 こっちの返答を聞かずに扉が開く。

 学生会担当教官、筑紫野先生だ。


「長津田君、最近 頭の悪い化石に喧嘩を売ったようね」


 何のことだかは想像はついている。

 日本刀の事で思い出したくもないような汚い文面で罵ってきた、自称日本刀の第一人者にして一流刀工の事だろう。


「学生の身ながら大人の態度でもって、事実と予定だけを率直にお返事させていただいただけです」

「という訳で、学校側にも自称刀工を名乗る頭が悪いカミツキガメが噛み付いてきましたわ」


 やはり同じ件のようだ。

 そして先生も頭にきているようだ。


「処理はどうする予定ですか」

っておしまいなさい」


 残念ながら今日の留守番は風遊美さんだ。


「先生、この学校でその言葉を使うと冗談では済まなくなります」

「ノリが悪いわね。奈津季ならここで『手打ちにしますが、半殺しにしますか?』位聞いてくるわよ」

「ぼたもちじゃないんですから」


 上方落語なお約束だ。


「まあ具体的に言うと、社会的に抹殺してもよしという事よ。既に刀剣保存協会や刀匠会にも話は通してあるわ。

 どうも腕が無い癖に口だけ煩い役立たずの爺さんのようね。

 だから旧来の日本刀そのものに傷がつかない決着なら、どう料理してもいいとの言質も取ったわ。

 という訳で爬虫類さんを、比較用の展示会と試し切り会、あと居合大会という名のメッタ斬り会に招待致しましたの。

 そこで旧来の日本刀と最近学内で流行りつつある日本刀と較べてどれ位勝算があるか、製作元代表に聞いてみていいかしら」


 そういう事か。


「あの2人の打った刀なら、国宝級の刀を持ってきても負けませんよ」


 さらっと俺は事実を言ってのける。


「本当かしら」

「最近流行ったように見えても、元々は香緒里ちゃんが冬休みに博物館等で名刀と言われるものを見て色々確認して作っています。

 それこそ単純な強度や全体の塑性弾性や材質も分子の構造に至るまで、完全に計算した上でそれを超える物にしているんです。

 ただ昔からの方法のまま発展も工夫もしないで作っているだけの民芸品に勝ち目があると思いますか。

 ただ馬鹿なりに汚い手を使ってくる可能性があるので、公平な査定者を呼んでおく必要はあるかと」


 筑紫野先生はふん、と笑う。


「それは手を打ったわ。それにしても長津田も毒を吐く時はあるんですね」

「馬鹿は嫌いですから」


 先生はにやりとする。


「じゃあ舞台設定は教授会こっちでやりますわ。10月31日水曜日に予定していますからよければ見に来て下さいね」


 そう言って先生は立ち上がり、どすどす去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る