第191話 日頃の感謝を込めまして

 俺が杖とアミュレットを作るのにほぼ10日かかった。

 これはアミュレットの方に先行製品がなく色々試行錯誤をしたからだ。

 でも、おかげで刀の方の完成と同時になった。


 午後4時30分、販売の方の刀を全部引き渡した後。

 俺はまず2人にアミュレットを渡す。


「魔法工学科には杖や刀をつかう文化はないからさ、これで我慢してくれ」


 長さ15センチ程で、形は仏教の三鈷剣を模している。

 人工水晶と銀と魔力銀製で、中にそれぞれにあわせた魔石を埋め込んである。


「ありがとうございます。へへへへ、修先輩にもらったです」

「修兄、ありがとうございます。でもいいのですか、これ」

「俺も収入あったし、いいのいいの」


 実は材料費が潜航艇の設計図代収入よりかかっているのは内緒だ。

 まあこのアミュレット、評判が良ければ増産して儲けるつもりもあるんだけれど。

 その際はもっと安価な材料で作る予定。


 工房を撤収して学生会室に向かう。

「おかえり、今日は早かったな」


 奈津季さんが出迎えてくれた。

 運がいいことに全員揃っている。


「それでは、後期初めに起こった騒動でご迷惑をかけた事のお詫びがてら、新作のモニター授与をさせて頂きます。まずは会長から」


 香緒里ちゃんに杖を渡してもらう。


「生命の杖テュルソス、まあ内容はカドゥケウスの最新改良版ですけれどね」


 蔦がからまった木の棒にリボンが巻かれ、頂点に松ぼっくりが飾られているというデザイン。

 全部木製だが、握り等数カ所に魔力導線が入っている。

 カドゥケウスと同様、隠しポケットにメスが2本入っている。


 次は奈津希さんの日本刀、そしてジェニーの杖と順々に渡していく。

 うむ、皆なかなかいい反応だ。

 ルイス君なんて刀を全部抜きたくてうずうずしているぞ。


「でも、本当にいいのかい。これ多分特区の外で買ったら百万は下らないぞ」

「それ以前に、日本刀型魔法剣なんてどこの特区でも売ってない。向こうの特区でなら何万ユーロでも買い手がつく」

「この杖異常に魔法が乗りやすいれす」

「という事だけど、本当にいいのですか」

 俺を含めて3人共頷く。


「それに私達もこれを貰いましたから」


 香緒里ちゃんがアミュレットを出してみせた。

 すると風遊美さんと奈津季さんがちょっと難しい表情をする。


「詩織ちゃん、ちょっとその三鈷剣、お借りしていいですか」

「はいですけど」


 風遊美さんは詩織ちゃんのアミュレットを借りて握りしめる。


「間違いないですね、これ」

 4年生2人が頷きあう。


「修、このアミュレット、香緒里や詩織にテストさせず、自分だけでテストを繰り返して作っただろ」

 俺は頷く。


「ひょっとして香緒里ちゃんや詩織ちゃんには使いにくくなっていますか」


「その逆だ。魔力がほとんどない修でも効果がはっきりわかる位に作ったという事はだな。つまり普通の魔力があれば笑っちゃうくらいに魔力を増幅するって事だ。違うか、風遊美」


「その通りです。効率も含め、私でざっと3倍相当ですね」


「どうせ杖や刀と同じ威力を小さいアミュレットに持たせるため、色々凝った機構を組み込んだんだろう」


 そう言われると色々と思い当たる節はある訳で。


「確かに魔力増幅と集中の魔法陣を魔法銀で黒曜石基盤に印刷して、人工水晶の発振増幅効果も使っています……」

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