第15章 世を思ふゆえに物思ふ身は

第190話 日頃の感謝もありますし

 審査書類を見る限り、今年の学園祭にはそれほど危険な出し物は無さそうだ。

 教授会が『激闘ロボカップ!パワードスーツによるガチバトル!』等という催し物を計画しているが、残念ながらこれの却下の権限は学生会にもない。

 他はせいぜい黒魔術による占いとかその程度。


 俺が気になったのは創造制作研究会の売店だ。

 今年も甘味処をやるらしいが、江田部長は卒業して島外へと去っている。

 あの人なしで大丈夫なのだろうか。


 書類作業はほぼ3日である程度片付いたので、今日は事務作業は1時間だけであとは俺も工房の方にいる。

 いくつか個人的に作りたいものがあったのだ。

 必要な魔石もいくつか質のいいのを購買で買ってある。


 まずは杖だ。

 ストック庫の中にある『長津田専用!』と但書が貼られた場所から、とっておきの角材を出す。

 西洋トネリコの芯材、魔法杖の素材としては最上のものの一つだ。

 これを大まかに工作機械で削り、そして手彫りで仕上げていく。


 向こう側では女子2人が刀鍛冶をやっている。

 うち片方、小さい方が一息入れた隙を見て話しかける。


「詩織ちゃん、今大丈夫か」

「ちょっと疲れているけど大丈夫っすよ」


 確かにそんな感じだ。


「実はこっそりと日本刀型の魔法剣を頼みたいんだ。芯材の魔法銀と魔石は提供するから」

「どうせ何本も作るから1本くらいいいですけれど、何ですか」

「実はルイス用のなんだ。俺達がこっちにいる分の仕事をしてもらっているお礼に、学生会の面子全員にそれなりの魔法道具を作ろうと思ってな」


 香緒里ちゃんにも聞こえる程度の小声で頼み込む。


「それはいいっすね。でもルイス用なら仕様的には香緒里先輩の方が本当は良くないですか」

「詩織ちゃんの方がいいんだ。そうだよな」


 香緒里ちゃんも頷く。

 香緒里ちゃんにはその理由がわかっているようだ。


「杖とかは俺が作るから」

「あれ、奈津季先輩の分はどうします。何なら私が作りましょうか」


 香緒里ちゃんが聞いてくる。


「そうだな。奈津季さんは前に俺が作った杖も持っているんだが、この際だから作り直した方がいいかもな。仕様はルイスのと基本同じ、ただ魔法石と導線は2つ仕様で。魔法石は俺が調達する」


「2つ仕様でいいんですね」

「前に5つ仕様で作ったけれど、どうも奈津希さんの場合は2つ仕様の方が相性がいいらしい」

「わかりました」


 これは一昨日話していて思いついた事だ。

 風遊美さんが使っているというケーリュケイオンの杖は、月見野先輩のカドゥケウスの設計図を元に創造製作研究会で量産した一般仕様。

 性能的が悪い訳ではないが、風遊美さんに完全にあっている訳ではない。

 だから日頃世話になっているお返しに、風遊美さん専用杖を作ろうと思ったのだ。

 ついでに普段苦労しているルイスくんや、ジェニーとソフィーにも。


 本人達には言っていないが、香緒里ちゃんと詩織ちゃんの分も作る予定だ。

 魔法工学科に魔法杖や魔法剣を持ち歩く文化はない。

 だからアミュレットになるけれど。

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