第187話 小話その3の3 久しぶりの自由製作

 その夜。

 俺は久しぶりに課題でも注文品でもない物の図面をCADで描いた。


 最初は乗り込み型で大きい物を構想した。

 でも俺の求める自由さと相反する面があったので、思いきって小型に修正した。


 推進装置は空飛ぶシリーズ最終型の漁船と基本的に同じ。

 ただある機能実現のために、重力制御の調整幅を重力を増す側にもつける。

 MJ管による直接魔法制御も一応つける。

 念のため安全装置は一応つけて、かつ二重構造にして全面100メートル防水くらいにきっちり仕上げる。


 そしてCAD上で出来上がった形は、近いものとしては小型スクーター。

 タイヤが無かったり色々相違点もあるけれど。

 その日のうちに必要部品の発注を済ませる。


 そして次の日から、俺は工房へとこもった。

 久しぶりに好き勝手な図面を引いたので色々苦労する点もあった。

 でも経験値はこの3年で充分に積んでいる。

 そしてその久しぶりの苦労が楽しい。


 生産性重視ならこういう曲線は引かないなとかいう場所も、あえてそのまま作る。

 基準は俺が楽しいと感じるかどうか。

 効率とか生産性とか関係ない。


 魚釣り大会の日だけ工房を休んだ他は、雨の日も含め工房へ皆勤。

 ただ大雨の日以外は香緒里ちゃんと詩織ちゃんも工房に来てくれた。


 香緒里ちゃんはバネ作業と日本刀を作っていたようだ。

 詩織ちゃんの名刀レプリカシリーズに触発されたらしい。

 今までの炉を改良して色々試している。


 詩織ちゃんはまだ砂鉄が足りないらしく、工房へ来てもすぐに姿を消す。

 今は空港裏の昔露天風呂をやった辺りの砂浜で砂鉄採取中らしい。


 そして数日後。

 香緒里ちゃんは何本か目に満足の行く1本を無事打ち終えた。

 詩織ちゃんは無事製鉄を終了し、今は刀の為に材料の鉄の成分を調整中だ。


「それにしても、やっぱり香緒里先輩刀上手いです。しかし村正ですか。えげつない刀を選ぶですね」

「詩織ちゃんの刀を見て、実用というか真に実戦的な刀を本気で作ってみたくなったんです。妖刀というからには斬れ味も確かなんだろうなと思って」


 確かに今までこの工房で作った刀と違う存在感がある。

 出来上がったばかりのレプリカの癖に、既に何人も斬ったような風格が。


 そして俺も自分の作品を完成させた。

 一見宅配なんかで使うような風防付きのスクーター。

 ただ風防の形が変で、搭乗者の肩より上を横も後ろも全部ぐるりと覆っている。

 そしてやっぱりタイヤは無い。


「修兄のもこれで完成ですか」

「見るからに怪しいSFな乗り物ですね」


 この2人は作るのを横で見ていたり、色々魔法をかけてもらったりした。

 だからこれが何かを知っている。


「まあ、何とか2回めの無人島バカンスに間に合った」

「速度はどれ位出るですか」

「時速10キロ程度だろ。抵抗が小さくて推進力が大きいから空中なら100キロは超えると思うけれど」


「一度全速でぶっ飛ばしたいですね」

 血の繋がりはない癖に誰かと同じ発想をしてやがる。


「去年お前の親父がそれをやって、自衛隊から学校に苦情が来た。それにこいつの真価は空中じゃない」


「楽しみですね、明後日のバカンス」

 香緒里ちゃんがそう言ってくれる。


「ああ」

 真の試運転はバカンス中、北之島にてやる予定だ。

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