第188話 小話その3の4 俺は一応満足だ

 今回のバカンスでは、船の運転は香緒里ちゃんにお願いした。

 そして俺は例のスクーターもどきで後を追う。


 肩より上の空気があまり動かないので、夏空の下では結構暑い。

 帰ったらクーラーをつけようと思いつつ飛行する。


 香緒里ちゃんの船の操縦は俺より上手い位だ。

 魔力の違いもあって速度も速い。

 そういう訳で問題なくいつもの砂浜に到着する。


「それにしても修、その怪しい乗り物は何なんだ。空飛ぶだけならわざわざこの島には持ってこないだろ」

「怪しげな漫画の乗り物みたいれすね」


 香緒里ちゃんも詩織ちゃんも誰にも言っていないようだ。


「じゃあちょっと試運転をしてきます」

「あれ、今空を飛んでいたのは運転ではないのですか」


 風遊美さんの言う事ももっともだが、これの真価は空中じゃない。


「あれはあくまで目的地までの移動手段。これの本来の用途は簡易潜水艇です」

 そう、これは潜水艇。

 ダイビング免許なしで水中散歩が出来る。


 肩の上からは空気を充填しているので、呼吸も問題ない。

 二酸化炭素を分離する装置と足りなくなった酸素を海水から分解して補充する装置をつけている。

 動力も魔力駆動なので、魔力がある限り無限に水中散歩が可能。

 しかも魔力の消費も大したことはない。

 俺でも3時間は充分に運転できるくらいだ。

 突如魔力が切れた場合に備え、脱出浮上装置も付けてある。


 俺は潜水艇を空中に浮上させ、ある程度深そうな海上へ移動。

 若干の波を気にせず潜行を開始する。

 波でキャノピー部分に海水が入ったが、すぐに空気が充填された。


 ガラス越しに海中もかなりよく見える。

 呼吸も問題ない。

 暑い空中よりむしろ快適だ。


 小魚の群れが流れていくように前を横切ったり、時折でっかいギンガメアジの類が泳いでいったり。

 海中だと速度は時速10キロ位だが、それでも結構速く感じる。


 なかなか楽しいが、試運転だし周りが心配すると行けないのでそろそろ浮上。

 一気に海上へ出て旋回し、そのまま砂浜へ。


 戻るとあっという間に皆に取り囲まれた。

 一通りの説明の後、乗る順番を決めるじゃんけん大会が開催される。


 じゃんけんも強い奈津希さんが真っ先に乗り込み、遥か先までかっ飛んで行った。

 ジェットスキーみたいな水上滑走もやった後、おもむろに海中に消える。

 一応頑丈には作ってあるし壊れないとは思うけど大丈夫だよな。


 ◇◇◇

 

 どの学校にもあるとは思うが、魔技高専にも夏休み作品展というものがある。

 名前こそ小中学校のものと同じだが、出展されているものが段違いだ。


 昨年は俺と同じクラスの上野毛君が、『完全自律人造人形 ダミー・オスカー』を発表して学内中の注目を集めた。

 5歳児程度の人工知能を搭載し会話が可能。

 身体は小学6年生程度の外見の美少女を男装させた状態。

 シリコンラバーを始め多種素材を活用し真に人間と見間違える程の外観と手触り。

 両手両足首表情目全部自律稼働。

 まあ歩いたりは出来ないけれど。


 ただこの作品の問題点はそこにはない。

 そこまで完全に人間に似せた自動人形の正体が、実はダッチワイフだという所だ。


 胸は勿論性器も年齢相応にして完璧な作り込み。

 行為をすればちゃんとそれに対する反応もする。

 人工知能が好意を持つように行動すればちゃんと反応も変わるし新たなサービスもしてくれるという問題の逸品だ。

 学内中の顰蹙と失笑と尊敬を集め、教授会にも採点不能と匙を投げられたあの逸品は、きっと後世まで高専の伝説として残ることだろう。


 今年は学生会の面子からも3品、出展させてもらうことにした。

 一つは俺の潜航艇。

 一つは香緒里ちゃん作の『実戦的日本刀習作 村正』。

 最後の一つは、詩織ちゃん作の『模作 童子切安綱』。

 香緒里ちゃんの村正の出来に対抗心を抱いた詩織ちゃんの意地がこもった一品だ。


 ただ、他からの評価はあまり関係ない。

 俺は久しぶりに作りたいものを作った。

 個人的にはそれだけで充分満足だ。

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