第179話 小話その1の2 腕とプリンとロケットパンチ
学生会一同でぞろぞろとマンションへ。
金曜日が露天風呂の日なのは今期の学生会でも変わらない。
風遊美さんとソフィーから逃げ、俺は樽湯を38度設定にして引きこもる。
この温度だと水温を感じずに長湯が出来るので動かなくて済むからだ。
こんな引き籠もり用の極意はルイス君から教えて貰った。
「修兄、ちょっと聞いていいですか」
隣の樽湯から香緒里ちゃんが聞いてくる。
「何?わかることなら」
「修兄は物を作る時、わかりやすさと機能の豊富さ、どっちを優先しますか」
ちょっと考えて答える。
「難しいけれど、どうしても2択でというならわかりやすさ。まずは使えない事には話にならないから」
それだけだとちょっと理由として弱いので付け加える。
「機能は豊富な方がいいんだろうけどさ。本当に必要な機能なんて実はそれ程多くないことが多いんだ。
豊富な機能なんて、製作者があれも出来るこれも出来ると付け加えただけで、実際ほとんど使わなかったりするしね。
むしろ必要な機能だけを分かりやすく単純に実現したほうが、機構も簡単かつ信頼性高いものに出来るしさ。そうすればバランスとか細かい使い勝手の調整だのに資源をさけるから」
「結構意外ですね。修兄はもっと多機能派かと思っていました」
「ついそんなの作ってしまう事も多いけどな。冬の課題もそれで失敗したし。
でも簡単に出来るなら出来るだけ簡単に、同じスペックなら新技術より枯れた技術ってある意味物作りの基本だぜ。プログラムだって同じ機能なら軽い方が優秀だし」
「あの義足にジャイロ関節を使った人の意見とは思えませんですね」
あ、詩織ちゃんから茶々が入った。
「あれは足という部位だから規定以上の入力がある想定で、止む無くそうしたの。現に他の部位の構造は比較的単純だろ。自由度だってそこまで求めていないし」
一応詩織ちゃんは納得したらしく頷く。
「確かにそうですね。それは認めるです。私ならフリーな関節はとことん自由度追求したくなるのであと6本は筋肉代用のバネを使うですねきっと」
おいおい。
「でもそれじゃ皮膚部分が破れるか強烈なしわになっちゃうだろ」
「ついでに色々動作プログラム付けて人間離れした動きとパワーを実現し……」
「普通の人間はそんなの使い切れないし、求めてないって」
「そうですか。私なら多機能やりたい放題仕様なんて最高に楽しいですよ」
「少しは自分がおかしいという事を自覚しろって」
でも詩織ちゃんのお陰で言いたい事を何となく言えたような気がする。
まあ詩織ちゃんにそんなつもりはなく、全て本心だと思うけれど。
「それにしてもぬるいですねこの樽湯。もっと温度上げてあげるです」
「俺はこれでいいの。こら入ってくるな。樽湯は1人用!」
ちぇっ、て顔をして詩織ちゃんは俺の樽湯を離れ、香緒里ちゃんの樽湯へ入る。
「ちょっと熱めなのですがこれ位が風呂の温度ですよ。それで香緒里先輩、どうせ義手を造るならついでにロケットパンチ機能を是非……」
「いらんっての。誰が使うんだ義手のロケットパンチ機能って」
「でも例のパワードスーツのロケットパンチ機能は評判良かったですよ。
そうそうあのパワードスーツ、今度アメリカのテレビ局であれを使ったガチバトル番組やるらしくて20台の注文が入ったですよ。設計図だけのパテント代で800万円の丸儲けですよ。これで日々のプリンには困らないですよ」
あ、稼ぎで詩織ちゃんに抜かれるかどうか、思わず計算してしまった。
まだ大丈夫だけれども、この調子だと来年はヤバイかな。
最近は俺、ヒット作を作っていないし。
「プリンって、お前ん家金持ちだろ」
「甘いもの食べすぎって言われて、親父と私におやつ禁止令が出ているですよ。
あと勝手に機械増やすな令も出たのです。
今度こっそり新規の機械を買ったらこっちの屋上に置かして下さいとの事なのです。親父と私からの切なるお願いなのです」
何かもう、どうしようもない感じだ。
香緒里ちゃんも向こうの樽風呂で苦笑している。
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