第14章 好きという単語の定義域 ~夏に思った考えた~

第178話 小話その1の1 金曜午後の工房近況

 香緒里ちゃんが課題で悩んでいる。

 2年生恒例の医用生体魔法工学の課題、今回は右腕用義手だそうだ。

 毎年学生を悩ませているこの課題。

 香緒里ちゃんもこの泥沼にはまってしまったらしい。


 何か聞いてくれればアドバイスも出来る。

 でも今回は俺のアドバイスなしでやりたいようだ。

 だから俺も手出ししたい気持ちを必死にこらえ、見るだけに留めている。


 既に試作品らしき物が出来ているが、どうも納得がいっていないようだ。

 何度も何度も細部を作り直していはため息をついている状態。


 一方、同じ工房内でも詩織ちゃんは相変わらず好き勝手に物を作っている。

 天下五剣レプリカ、今は鬼丸国綱を作っているらしい。

 今回は砂鉄から作るらしい。

 昨日は水を使って比重で砂から砂鉄を分離する装置を作っていた。

 まあそう簡単にはいかないだろう。

 でもこっちについては俺は生温かい目で見守っている。

 むしろ多少壁にぶち当たった方がいい経験になるだろう。


 俺の方は特に今は難しい課題はない。

 ただこの前の円周率を求める課題。

 ちょっと提出したものが真っ当すぎて面白くなかった点は反省している。


 プログラム系はクラスに昔からのマニアが数人いる。

 そいつらがやっぱり強いのだ。

 速度重視でアセンブラで書いた剛の者もいたし、俺の想像出来ないようなアルゴリズムを作り出した数学狂もいた。


 逆にエクセルのマクロとVBAを使って、エクセル上のボタンを押すとだーっと100桁まで円周率を計算して表示するものもあったそうだ。

 完全にマシン語で書いた先輩も過去にはいたらしい。

 逆アセンブラをかけて採点したと田奈先生は言っていたが。

 評価は同じAなのだが、そいつらと比べると何か負けた気がする。


 そしてそんなのを採点する先生も大変だ。

 それでも使用言語を限定しないあたり、田奈先生は強者だなとしみじみ思う。

 まあ魔法工学科もそんな変人じみた強者ばかりではない。

 大抵は一般的なC++とかJava。

 もしくは授業で習ったPythonとか真っ当な言語を使うのだけれども。


 工房は若干ではあるがリニューアルした。

 パソコンをもう1台置いてネットワーク接続し、2人で工作機械を使えるようにしたりとか、バネ収納用の棚と作業台を作ったりとか。

 パソコンは台湾から通販で買ったよくわからないブランドのものだが性能はいい。

 ディスプレイやキーボードやマウスは学内で余っているのを適当に調達してきた。


 あと1台、ネット用のパソコンもどきも設置。

 これはラズパイの激安互換機に色々つけた超廉価仕様だ。

 微妙に反応が鈍いが4千円相当という値段を考えれば悪くはない。


「そろそろ終わりにしないれすか」

 ジェニーの声。

 時計を見ると午後5時45分。

 確かに、そろそろ片付けの時間だろう。

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