第177話 終わり良ければ
「私は特に大変な事は無かったですよ。警察と自衛隊に簡単に調書を取られて、あと裁判所で事情を色々聞かれて。
ただ移動が色々せわしなかっただけなのです。
でも飯は何処へ行っても美味いのを食べたですよ。親父、食通っすね」
場所はいつもの露天風呂。
それぞれの湯に浸かりながら詩織ちゃんの話を聞いている。
「でも田奈先生相手で大丈夫だった?話題も合わないだろうし」
由香里姉の言葉に詩織ちゃんはにまーっと笑う。
「なかなか楽しい親父っすよ。昨日飯食べて服買った後、時間があったから秋葉原の親父馴染みの店に連れて行って貰ったです。
電子基板もモーターもパーツ類色々も見れて楽しかったのです。
家族になったお祝いで3Dプリンタのいいのも注文したですよ。
来週には着く予定です。来たら使わせてあげてもいいです」
なんだかな。
心配を通り越して別の心配が。
でも何かもう色々駄目というか、手遅れな気がする。
完全に田奈先生に馴染んでいる模様だ。
趣味があうだけにとんでもない事になりそうだ。
田奈夫人はこれから苦労しないだろうか。
「それじゃあ今日は8時半から家族で夕食会なんで、先にあがるのです」
詩織ちゃんはそう言うと立ち上がり、タオルを纏うと同時に姿を消した。
既に田奈邸とこことの間は自由に行き来できるようだ。
「田奈先生のところって、家族構成どうでした」
「先生と奥さんと、魔技大の院生やっている娘さんが1人だったかな」
俺は風遊美さんの質問に答える。
「それでは女の子が1人増えても問題は無さそうですね」
「それが詩織ちゃんというのが心配だけどな。田奈先生とオタク同士気が合いすぎて家族争議がおこるかもしれない」
「それでも上手くやっていくだろ。詩織なら」
樽風呂から顔だけ出している奈津希さんがそう言って、そして俺の方を見る。
「修のベッドに夜中出てくるのも今後無くなると思うぞ。どうだ寂しいか」
「何でそう思うんです」
「修のベッドにちょくちょく出現した理由は、多分ベッドマットが気に入ったのとは違う理由だろうと思うからさ。
この学校へ来て修に親切にしてもらった事が嬉しくて、甘えていたんだろうな。
家にいたのは親というより上司兼監視者だったらしいし」
「まあ取り敢えず、お互い安眠できるのはいいことですね」
「全くだ」
俺の本音としては。
詩織ちゃんが田奈先生預かりになった事で安堵しているし喜んでもいる。
でも人間としては信頼できるし性格も悪くない。
某国が取り返しに来ても返り討ちにするくらいの実力もあるし、今の詩織ちゃんの状況ではほぼ理想的な養親だろう。
経済力も全く問題ない。
「もしベッドが寂しいようなら、僕が代わりに添い寝をしてやろうか」
「確かに奈津希さんの寝相は詩織ちゃんと互角ですが、大きい分邪魔です」
「大丈夫。寝る前にベッドの上でアツーい運動をして疲れさせてくれればいい。お互いスッキリして……」
奈津希さんの台詞が急に止まる。
どうしたのかと見ると、奈津希さんが樽風呂ごと氷漬けにされていた。
大丈夫かと思ったが、5秒位で氷を溶かして復活する。
流石最強のオールラウンダー。
「由香里さん、僕じゃなければ死ぬ処です!」
「私の予約物件に手を出す方が悪いのよ」
「夜這いと寝取りは日本の文化!」
「なら実力でかかってらっしゃ……」
由香里姉と奈津希さんが同時にぐったりと倒れる。
「お風呂は静かに楽しむものです」
風遊美さんはそう言うとよいしょと身体を起こし、由香里姉を浴槽から引っ張り上げ始めた。
「そうですね」。
と香緒里ちゃん。
奈津希さんは樽風呂から引っ張り出せないので、代わりに姿勢を整えて樽風呂内の水を排水させている。
今のは風遊美さんと香緒里ちゃん、どっちが仕掛けたのだろうか。
あるいは両方かな?
まあいいか、そんな些細な事は。
俺はあられもない姿で作業中の2人から目をそらす。
取り敢えず今は、ぬるめのお湯を平和かつ静かに楽しむことにしよう。
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