第165話 まほうのかたち

「僕が思うに、魔法は本来は心の形そのもの、心が求める形で現れるものなんだ。

 例えば由香里さんの氷魔法なんてのは閉じ込めてもいいから守りたい、なんて典型的な形だろ。

 香緒里ちゃんの本来の魔法は修や由香里さんと一緒にいたい、繋がっていたいというところが起源だろうし。

 ジェニーのレーダー魔法は多分修を探すための物だし、風遊美のなんて典型的な逃走用だろ」


 ふん、と風遊美さんは鼻で笑う。


「失礼ね。まあその通りですけれど。

 私の田舎は良く言えば伝統を重んじるような処でした。

 なので魔法を使えるのを隠していたのですけれど、それでも持っている魔力だけで結構奇異な目で見られて。お陰で何度も引っ越しをしました。結局はEUの魔法特区に逃げ込んだんですけどね。

 更にそこすら逃げて現在いまはここにいるんですけれど。


 ただ今までの中でここは一番安心できるところです。差別も偏見も無いし、今までの人生が冗談だったみたいに平和で穏やかで。

 夏が暑いのが唯一の欠点ですね」


「まあ確かにここは平穏かつ平和だからね」

 奈津希さんはそう言って笑う。


「だから逆に、ここ生まれの人間はなかなか魔法が発現しないんだ。両親共に魔法持ちで遺伝子上は魔法を持っている可能性が高いのに。

 使えても抽象的な魔法のみ、大体そんな感じさ。

 僕が通った聟島小学校の児童もそう。親は全員魔法使いなのに実用になる魔法を使える児童は半分もいなかった。僕もそうさ。並程度の魔力は持っていたけれどね」


 一呼吸置いて、話を続ける。


「小学3年の頃までは必死に念じれば紙に火をつけるのが出来る程度。魔法理論より物理学的な熱に対する理論を勉強してからかな、発熱魔法が実用的になったのは。

 中学に入った頃にやっと冷たい方の熱操作が出来るようになって、そこからは割と早かったと自負しているけれどさ」


 一見何でも出来る天才肌にしか見えない。

 けれどやっぱり奈津希さんは努力家なんだな。

 見せているのは何重にも積み重ねた一番上の層、ってだけで。


「まあ、今の時期に修が自衛魔法を憶えてくれて正直ほっとしたんだ。そろそろまた嫌な予感がする時期になってきたからな」


「また変な海外情勢動向でも拾ってきたのですか」


 奈津希さんは首を横に振る。

「直接の付近動向では無いんだ。ただ何ていうのかな。何か起きる気がするんだ。そしてその起点がどこかもわかっている。

 でも直接防ぐのも正直心が痛むし、何かいい方法があるような気もするんだ」


「奈津希にしては随分弱気ね」


「自覚はあるよ」

 奈津希さんは頷いて、そして立ち上がる。


「静かについてきて」


 俺達は奈津希さんの後をついていく。

 奈津希さんが向かったのは、俺の部屋?

 俺の部屋の扉を音を立てずに開け、そして中へ入る。


 奈津希さんが部屋の中で指差した先は、俺のベッド。

 そこにはいつの間にか侵入者がいた。

 凄まじい寝相で小さな体で大きなベッドを占拠している。


「これは……」


 奈津希さんはジェスチャーで俺を黙らせる。

 そして静かに皆で部屋を出て、扉を閉めた。

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