第164話 種明かしの夜

 全員が着替えたのを確認してから、俺はジェニーに頼みに行く。


「頼む、今使っていない奴で、人間の脳とか神経の構造が一番分かる本を貸してくれないか。GW中には返すから」


「いいれすよ。その関係の課題は出ていないれすし」


 ジェニーは自分の部屋へ向かい、分厚い参考書2冊を持ってくる。

「このあたりの本が詳しいれす。しかしどうしたのれすか。補助魔法科に転科でも考えているのれすか」


「いや、ちょっと必要があってさ。ありがとう」


 早速俺は本を自分の部屋に持っていき、調べ始める。

 俺の魔法、本来機械を修復したり壊したりする魔法を人間に使った場合、最も生命に支障なく戦闘力を奪える部位はどこかを。


 案の定そんなに簡単に都合のいい部位は見つからない。

 ネット検索も駆使しながら色々読み込む。


 ◇◇◇

 

 気がつくと真夜中近くになっていた。

 リビングの方も静かだ。

 もう皆寝たり帰ったりしたのだろう。


 俺は静かに部屋のドアを開け、リビングに出る。

 部屋の片隅の鏡に俺の全身を映し出し、軽く審査の魔法をかける。


 うん、予定通り俺が確認しようとした大脳の各部分が分かる。

 大脳新皮質も海馬も線条体も扁桃核も嗅脳も。

 なら、俺の自衛魔法はおそらく使えるだろう。

 ちょっとでも間違えれば廃人を作ってしまうので、試すことは出来ないけれど。


 不意に客間のドアが開く。

 出てきたのは風遊美さんと奈津希さんの4年生コンビだ。


「自衛魔法、出来たようですね」


「ありがとうございます」

 俺は頭を下げる。


「ま、お茶でも飲もうや」

 奈津希さんが応接セット部分の照明をつけ、自分はキッチンの方へ行く。


「ひょっとして、今まで待っていてくれたんですか」

「修君ならそろそろ気づくだろうって、奈津希が主張したからです」


「実際に気づいただろ。僕の予想は正しかったわけだ」

 キッチンから奈津希さんの声。


 ふと気づく。

 待っていたのはきっと、今だけではない。


「ひょっとして腕を治した時もこういう意図があってですか」


 風遊美さんは頷いた。

「私というより奈津希の意見ですね」


「我ながら底意地が悪いとは思ったんだけどさ。出来るだけ自分で気づいて欲しかったんだ。その態度は何様だよ、って怒られてしまいそうだけどね」


 台所の方から紅茶のいい香りがする。


「他にもヒントは出ていたんでしょうね。俺が気づかなかっただけで」


「気づかれないヒントはヒントじゃない。それに結局は気づいたんだ。優秀な後輩だよ、修は」

「奈津希は割とスパルタですからね。大事な相手ほど」


「そりゃそうだ。最後に頼れるのは自分なんだ。だからおせっかい且つ意地悪だと思いつつも、ついついこう面倒なことをしてしまう」

 奈津希さんはミニポット2つとカップ3つを入れたお盆を持ってくる。

 コーヒーが風遊美さんで、紅茶が俺と奈津希さんの分。


「少し僕の魔法の話をしよう。

 僕の魔法は全属性と言われているけれど、本来僕が使える魔法は2つだけ。

 攻撃魔法に使っているのはそのうちの1つ、温度変更の魔法だけなんだ。それすらネットや百科事典で熱の性質を色々勉強してイメージして。

 他の魔法は全部熱操作の魔法の応用。例えばさ」 


 奈津希さんは軽く腕を伸ばして人差し指を空中に向ける。

「ゆっくりやるから審査魔法で確認しな。僕の風魔法基本編」

 すっと指を指した先に風が舞う。


 審査魔法で見ると、確かに風魔法を直接使っている訳ではない。

 低温の空間の中央に高温の層を作って、上昇気流によって風を起こしているだけ。


「同じ方法で電気も起こせる。乾燥した空気と冷たい氷混じりの空気を使うのがポイントさ。土魔法は土の中の空気や水分を熱膨張させて代用出来る。


 僕の全属性魔法は、基本的にはそんな組み立てで作った、ただの技術上の産物だ。

 威力も単なる魔力の投射ではなく物理を応用して上げている。

 単なるファイアよりもスチームボムやフレアバーストの方が、同じ魔力でも威力は上だろ」

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