第163話 自衛魔法は見えますか

 浴槽の中で俺は考える。


 風遊美さんは多分、俺が求める答えを知っている。

 だからこそさっきの会話をした訳だ。

 ならばさっきの会話に答えがある。

 奈津希さんに聞く前にそこを詰めておく必要がある。


 風遊美さんのさっきの話をまとめると、『属性にとらわれるな』という事だろう。

 俺の魔法は属性だと木とか金属性。

 具体的に言うと機械の審査魔法と作成魔法。

 応用で機械の修理魔法。

 更に応用で工業製品をある程度動かす事が出来るが、普通のサイコキネシス系魔法持ちに比べると極端に効率は悪い。


 これらの魔法で何が出来るか。

 属性にとらわれず何が出来るか。


 例えば機械の修理魔法は、機械の故障魔法にも使える。

 襲撃者の靴を壊して一時的に脚を止めることも出来る。

 でも風遊美さんがほのめかしていた答えはそれでは無い気がする。

 うーん。


 色々と考えている時。

 露天風呂内の人間が動き出した。


「そろそろ皆さん上がるみたいですね」

 そう言って風遊美さんも立ち上がる。

 とっさに見ないようにしたのだが、風遊美さんは全く気にしないようすで俺の前を横切り、俺の斜め前で足を上げて浴槽から出ていった。

 まあそれが最短距離なのだが、こっちの事も少し気にしてくれ。


 俺も少し遅れて上がり、自分の部屋で手早く体を拭いて服を着る。

 俺の部屋で着替えているのは俺とルイス君と……おい。


「何故詩織がここにいる」


「客間は人数が多くて狭いですからね」

 ルイス君の当然な疑問にいけしゃあしゃあと答え、詩織ちゃんはこちらの目を全く気にすること無くのんびり身体を拭いて服を着ている。

 多分何も考えていないんだろう。


「ルイス、気にしたら俺達の負けだ」

「そうですね」


 大分彼もわかってきたようだ。


「別に見たければ見ればいいし気にしなければそれでいいし。あまり意味はないと思いますけどね。所詮多少の機能と外形が違う程度です」


 そんな俺達の配慮を無にする一言。

 性差も所詮、機能と外形の違いか。

 ある意味詩織ちゃんこいつらしい言い草だ。

 詩織ちゃんこいつから見れば機械も人間も変わらないんだろう。


 ん、待てよ。

 何か俺の頭に引っかかった。


 機械も人間も変わらない。

 その瞬間、一気に霧が晴れた気がした。


 例えば機械の補修魔法で治した俺の腕。

 俺の使える機械相手の魔法。

 そして、俺の自衛魔法の形。


 気がつけばヒントは色々出ていたのだ。

 あの事件の直後、俺の腕を魔法で治した時にも。

 ならば今の俺に必要なのは知識だ。

 人間の身体の構造に関する知識。

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