第162話 俺の自衛魔法とは

 実は俺は冬から考えている事がある。

 俺自身の自衛能力の強化だ。


 冬の襲撃の時、両手を失いかけたし香緒里ちゃんが寝込む羽目になった。

 俺がもう少し強ければこんな事態にはならなかった。

 いつまでも香緒里ちゃんや先輩方に頼っている訳にはいかない。

 最低でも自衛出来て、出来れば他の人も守れる位の力が欲しい。


 だが参考にできるかと思った田奈先生の魔法。

 俺には魔力的に無理だった。

 何せ田奈先生の魔法は本人所有の強大な魔力任せ。

 砂漠から鉄を抽出して槍を生成して飛ばすなんて荒業すら使用可能だ。


 俺の魔力で実用可能な自衛魔法。

 少ない魔力で最大限に効果を発揮させる魔法。

 奈津希さんの魔法に、何かそれを可能にするヒントはないだろうか。


「修君、今日は無口ですね」

 隣から風遊美さんの声。


 今いるのはいつもの露天風呂のぬる湯。

 ちなみにルイス君は一番部屋よりの樽湯に引きこもり中。

 ジェニーは寝湯を大股広げて堪能していて。

 詩織ちゃんはメインの浴槽で泳いでいるという感じ。

 他の面子はミストサウナやサウナ、流れの中を歩ける美容風呂といった新施設を試すのに忙しいようだ。


「いやちょっと考え事をしていて」


「何でしたら相談にのりますけれど」

 風遊美さんは優しい。

 だからつい聞いてしまう。


「冬にあった襲撃以来、ずっと考えているんです。やっぱり俺も何か自衛できる魔法を使えるようにしなきゃって。でもなかなか方法論が思いつかないんです」


「それで奈津希に聞いてみようと思ったのですか」

 何故そこで奈津希さんの名前が出てくるのだろうか。

 その通りなのだけれど。


「ご飯の途中から目が時々奈津希を追っていましたからね」

 相変わらず風遊美さんの観察力は普通じゃない。


「確かに奈津希に聞くのはある意味正解かもしれません。でも同時に奈津希だからこそ厳しい答えが返ってくる可能性も高いです。その理由は、奈津希に聞こうと思った修君ならわかりますね」


「奈津希さんの魔法は天然ではなく、おそらく自分の意思で開発した魔法だから」


「正解です」

 風遊美さんは頷く。


「ならば奈津希に相談する前に、少し雑談をしましょう。

 修君は魔法の『属性』という言葉についてどう思いますか」


 それは前に誰かに聞いたことがある。

 田奈先生だったっけか。


「個人の魔法の傾向を表すのに便利な言葉だけど、実際にはそんな物は存在しない。そう誰かに聞きました」


 風遊美さんはゆっくり頷いた。

「正解です。

 この属性だから自分にあっているというような事は実際はありません。ただ無秩序に存在する魔法をカテゴライズする為に使っているだけです。

 つまり属性とは便宜上の言葉です。本来、魔法に属性という物はありません。


 また、同じ魔法でも使う対象によって属性は変わります。

 ある対象に対する魔法が他の対象に使えない訳ではありません。

 そのことを奈津希に相談する前に、じっくりと考えてみて下さい」


 そう言って風遊美さんは、浴槽にちょっと沈み込むように身体を延ばす。

 忠告終了、という事だろう。

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