第160話 異常な魔法とその成果

 浴槽内の魚は、奈津希さんが冷凍魔法で締めて風呂場に運びこんでくれた。


「カンパチ、随分大物じゃないか」


 俺の魔法で測定した結果、全長110センチ体重22キロ。

 風遊美さんによるとシガテラ毒の心配は無いとのこと。


 大きすぎて台所では捌けず、奈津希さんは風呂場で解体作業を始める。

 既に部屋にこもっていた組も昼寝組も部屋から出てきて見物している。


「一体どうやってこんなのを手に入れたんですか」

 香緒里ちゃんにそう聞かれても俺にはわからない、

 張本人は俺のベッドで寝ているし。


「詩織さんが寮へ帰る時に使っている魔法と同種の方法だと思います。おそらく海から露天風呂まで空間をつなげて魚を飛ばしたのだと思いますが、それ以上は私にも想像がつきません」

 空間系魔法に一番詳しい風遊美さんでさえお手上げ状態。


「ただどんな方法を使ったにしろ、相当な魔力を使ったのではないかと思いますわ。まあ詩織さんは元々の魔力が大きいので夕方には回復して目覚めるかと」


 月見野先輩によれば、寝入っているのは単に魔力を大量に消費したせいらしい。

 何も俺のベッドで寝ることはないだろうと思うのだが。


「取り敢えず夕食は豪華にするぞ。何をやっても美味い魚だからな。刮目して待て」


「いつも料理すみません」


「良いってことよ」

 何か奈津希さんはノリノリ状態のようだ。


「あと修。どうせ鉄板とか工作材料この部屋にもあるんだろ。鍋作ってくれ鍋。直径34センチ高さ25センチ以上。蓋ありで焦げ付き防止は必要ない。鍋の厚さは持てる範囲で厚めに。あと鍋に合わせた落し蓋もつけてくれ」


「随分簡単に言ってくれますね」


「どうせ材料あるし出来るんだろ」


「まあその通りですが」

 俺はそう返事して。

 自室机の裏に隠していた1ミリ厚のステンレス板を苦労して引き出す。

 前に露天風呂改装に使った余りの素材だ。

 ちょいと重いがちょうどいい材料が他にない。


 工作機械などこの部屋には無いので全部俺の魔法で作る。

 適当な円形に切って叩いて底のアールを打ち出す。

 そのままぐるっと縦側に板を曲げ、適当なところで切断。

 溶接ならぬ魔力接合をかけて、縁処理して取っ手をつければ鍋本体は完成。


 そのまま同じ鉄板で蓋と落し蓋を作成。

 鉄板がぶ厚過ぎて無茶苦茶重い鍋になったが、注文通りなのは確かだ。


「鈴懸台先輩、これを台所までお願いします」

 俺は見える範囲で一番筋力がある人に頼んで。

 そしてその場で目を閉じて横になる。

 疲れた。

 魔力の残量がほとんど無い。


「おう、それにしても使うと筋肉つきそうな鍋だな」


「厚めの鉄板使ったんで。お陰で俺も魔力切れ寸前です」

 俺の魔力は魔法を使えない一般人と大差ない程度。

 重量物相手に本気で魔法を使うとすぐ魔力切れになる。


「翠先輩、ありがとうございます。修、注文通りご苦労。飯出来るまで寝てよし」

 奈津希さんからOKが出た。

 では失礼して、と思った時に俺の左手を誰かが握る。

 ふっと俺の中のだるさが飛んだ。


「香緒里ちゃん、ありがとう」

 誰のおかげかは目を開けなくてもわかる。

 香緒里ちゃんがちょっとだけ魔力を俺に与えてくれたのだ。


 本来は魔力のやりとりなんて事は出来ない。

 俺と香緒里ちゃんの間でだけ可能なごくごく珍しい魔法。

 多分幼児期に2人の色々が混ざり合って一緒になってしまったからだと思う。

 実際の真相は不明だけれども。


 だるさが心地いい疲れになったところで、今度こそ俺は眠りに陥った。

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