第159話 俺は何だかわからない

 何やら玉石混交な感じだが、確かに面白かったし参考になった。

 礼を言って田奈邸を辞して部屋へ帰ると、もう昼食の時間。


 今日の昼食は奈津希さんとジェニーのコラボ。

 ジャパニーズ天ぷら蕎麦、だそうだ。

 実際見た目にも美味しそうな太めで色濃いめの田舎蕎麦がザルに盛られている。

 天ぷらはエビとかき揚げだ。


「うん、美味しい。さっぱりしているし今日みたいな湿気た日にはちょうどいい」


「天ぷらもさっくり揚がっていていい感じです」


 確かに美味しい。


「蕎麦は今日は37で打った。まあいい粉が28で打つには足りなかったせいだけど、悪くないだろ」

 悪くないどころか凄く美味しい。

 というか何でも出来るな奈津希さんは。


「本当はそろそろ新鮮な魚でも獲りたいんだけれど、この天気じゃな」

 ちょっと船で出かけたい天気ではない。

 風はそれほどでもないが雨が鬱陶しい。


「そう言えば魚って、ある程度決まったところを泳ぐですよね」


 不意に妙な事を詩織ちゃんが言った。


「まあ、そうと言えばそうだけど」


「もし2メートル✕2メートルの網を3箇所張ったとして、何分位待てば大きくて美味しい魚がかかるですかねえ」


「難しいんじゃないかな。餌でもあればある程度寄せることができるだろうけれど」


「美味しい巨大魚さんの餌って何ですか」


「基本的には生きた小魚かな。カンパチあたりは動きのある餌しか食べないって言うし。釣りだと小魚に似せた疑似餌を動かして誘うけれど」


「そうなのですか」

 詩織ちゃんは何か考え込んでいる感じだ。


 その後詩織ちゃんに何を考えているのか聞いてみたが、空返事ばかり。

 内容のある話は何一つ聞けなかった。

 俺以外は特に誰も気にしていないようだったけれど。


 ◇◇◇

 

 食事の後。

 ジェニーとソフィーちゃんはWebの更新等でジェニーの部屋へとこもった。

 由香里姉は自分の部屋で何やら勉強中。

 鈴懸台先輩と月見野先輩も客間で勉強かお昼寝か。

 風遊美さんと奈津希さんと香緒里ちゃんは液晶テレビで対戦ゲーム。


 そして詩織ちゃんは俺の部屋のすぐ外のデッキ部分で何やら考え込んでいた。

 デッキの上は一応屋根をかけているので濡れる心配は無い。


 でも1人でそこで何やら考え込まれるとどうしても気になる。

 おかげで片付けようと思っていた課題のプログラムの最適化に手がつかない。


「うーん、ルート5端点失敗クローズ。ぶつぶつ」

 時々意味の分からない言葉をつぶやきつつ、詩織ちゃんは何やら考え込んだまま。

 もう食事後30分以上そのままだ。

 せめて言葉が通じれば相談なり何なりのってやるんだが。

 と、不意に。


「ゲット!ルート12」

 詩織ちゃんは急にそう叫ぶ。

 次の瞬間、露天風呂のぬる湯が大きく沸いた。

 気がつくとでっかい魚がぬる湯の浴槽でばちゃばちゃやっている。


「魔法で漁業、成功なのです。でも効率最悪なのです。疲れたんで寝るのです」


 詩織ちゃんはそう言うと立ち上がり、何も説明しないまま俺のベッドに倒れ込む。

 俺は浴槽で跳ねる巨大魚と俺のベッドで寝入った詩織ちゃんを交互に眺めて。

 そして何とかしてくれそうな奈津希さんに助けを求めた。

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